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「ねぇ、おじさん。さっき人のやつスったよね？」
「何の話だよ」
「嘘はよくないですよ〜？俺、この目でちゃーんと見てたんですから」
「……俺は何もしてない」
「本当ですか？この手首、捻ってもいいんですよ〜？」
なーんか、どこかで聞き覚えのある声。
……にしては、ちょっと話し方が違うような。
人混みをかき分けて、やっとその人影を見つける。
定期失くしたとか絶対親に叱られるもんね、それは避けたい。
『あの……私の定期、返してくれませんか……』
「ほら、その女の子も言ってるでしょ？返さなくっちゃ」
うん、聞けば聞くほど似ているようだけど、全然話し方違うし、多分思ってる人とは別人だろうし、その人はきっと、手首とか捻り上げないだろうなぁと思ったし、そもそもこんなに凄みながら煽るキャラじゃないだろうし。
なんなら、誰にでも分け隔てなく接してにこにこ笑顔な感じの可愛い感じの男の子だし。
「……チッ、ラッキーだったな、お前」
『あ、素直に返してくれるんだ』
その盗人さんはそう言い残して去っていった。
まぁ、定期は取り戻せたことだし一安心なんだけど、この盗人さんを捕まえてくれた人にはお礼をしないといけない。
『……あの、ありがとうございます』
「いーえ……って……」
顔を上げれば、そこにあったのはよく見知った顔で。
それは相手も同じだったようだ。
『うわ……イケメンくんだ』
「……わぁ、驚き。イケメンくんって俺のこと？」
そこには毎日顔を合わせ――いや、私が一方的に見ているだけのイケメンなクラスメートがいた。
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作者名：木染 凌 | 作成日時：2022年2月12日 22時
