正論パンチの緩和材【北信介】

エピローグ2 ページ10

ピー、と笛がなった。

その音は3年間何度も聞いた音。
いつもは自分も練習で鳴らしていた音。


やけどなんで、いつも聞こえ方が違うように感じるんやろう。
なんてことを考えながら、スコアブックに最後のペンを走らせる。

笛の音は時に凛々しく、ぎこちなく、重々しく、軽やかに、高らかに聞こえる。
今日はなんだか、今まで一番大きな音に聞こえた。いや、一番小さかったかな。
ああ、うまく言葉にできひん。

スコアブックを書き終える。
あ、ほんまに終わったんや。



会場から出た。心は虚無感に襲われたままだ。

「なあ、ちょっとええか」

ぼうっとしていると、後ろから肩を叩かれた。
振り返るとそこにいたのは北くんだった。


「春高、終わったやん」

「うん」

「聞いてほしいこと、聞いてもらえるか」

「……ちょっと待ってくれへん」

彼は「ええよ」と優しく言った。

春高前日から何を聞いてほしいのだろう、と予想を立てたことは何度もあった。
これまでは期待をしていたが今は少しの恐怖がある。

この話を聞くということは春高が終わったと言うこと。
つまり私の部活も終わりで、北くんの部活も終わりなのだ。

なんか、嫌やなぁ。寂しいなぁ。


「これ、使ってええで」

差し出されていたのはハンカチだった。
受け取って涙を拭いた。

「ありがとう……話、聞くわ」

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