正論パンチの緩和材【北信介】

正しさ ページ4

去って行った北くんに変わるかのように治がこちらにきた。


「Aちゃん先輩はこのまんまがええから厳しくせんといてよ」

このまんま、か…と心の中で反芻する。

「そうもいかんよ」

後輩の為やから、な、と諭すも、まだ反論は終わらないらしい。

「だって、厳しい人と優しい人とどっちもおったら丁度ええやんか。でも他の先輩が優しいだけなんは強くなれへんから為にならへんけど、Aちゃん先輩なら俺らの為に優しくできるやん」


確かにそうなのかもしれない。
篦棒に厳しくしても仕方ないのだろう。

北くんの言うことは正論で、でも治の言ったことも正しくて。

どちらの正しさを選ぶのか。



もどかしい気持ちを抱えながら、部活動日誌の今日のページを書く。


何が正しいのか。私はどうするべきなのか。

考え事をしながら書いていたため、いつもよりも時間がかかってしまった。

早く提出しなければ。
「さようなら」と挨拶をして書き終えた日誌を手に体育館を後にする。

「あんまり根詰めんと、ほどほどにして帰りやぁ」と声をかけたけれども皆の自主練習はどうやら、まだまだ終わらないらしい。



日暮れを感じさせる少し暗い廊下を進んで職員室へ。
失礼します、と言って扉を開けると暖房の暖かい空気がふんわりと感じられた。


「日誌、お願いします」

日誌を手渡すと、先生が声をかけてきた。

「練習はAから見てどうや」

「えっ…」

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