Attention Lies：しゆん (ページ4)

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「オレ、しゆんっていうんだけど、オマエは？」

「…A、です」

初対面の人に名前を教えていいものかと一瞬躊躇ったが、どうせもう二度と会わない人だと思い、本名を口にする。

「A、ね。かわいーじゃん」

「…ありがとう、ございます」

可愛いなんて言われたのはいつぶりだろう。

お世辞だとわかっているのに、その声があまりにも耳にすっと入ってくるものだから、酔ってもいないのに顔が熱くなってきてしまった。

「次、カシスソーダとかどう？」

「じゃあ、それで」

その後も勧められるままに飲んでいれば、ふわふわと心地いい気持ちになってくる。

そのせいだろうか、しゆんさんがいつの間にやら隣に来ていたことも、左手をとられていることも、今さっき気がついた。

「結婚、してんだね」

「…はい」

薬指の、今はもうただの飾りでしかない指輪を撫でられる。

そんな話の流れで、私はつい夫のことをベラベラと話してしまっていた。

お酒のせいもあってか、涙が零れてきてしまう。

しゆんさんは自分の手元の茶色いカクテルを一口飲んで喉を鳴らし、私に口づけをする。

スパイスの効いた味が、した。

「なんか、くだらねぇな」

そう言った彼の手を、私は取ってしまったのだ。