5 ページ5
・
私が弟くんの発言を少々恨んでいれば、先輩は無言のまま動かない。
光君も、私も、先輩があまりにも黙ったままだったから、大人しくなる。またあの怖い先輩を見る羽目になる、と覚悟して身構えていたが、一向に喋る気配のない先輩。
結局、口を開いたのは私だった。
「…勝手に行動してごめんなさい」
「…」
「こうして先輩の弟にまでつけ込んで、全部私が悪かったです。だから光君には何も叱らないでください！」
「…」
「それと…ちょっと距離置きましょうよ私たち。あ、別にマイナスな意味の言葉じゃないですよ！散々助けてもらっておいてなんですが、私はやっぱり、先輩の隣に並ぶには修行が足りてないって感じたので！」
先輩の逆鱗に触れたくなくて、出来るだけ明るく振る舞った。なんとも身勝手な話だけど、私はこのままギスギスとしてしまうくらいなら、元の先輩後輩になってしまった方が良いと思ったのだ。
後は単純に、この場を離れたい。切実に。
「光君もありがとう！やっぱり自分でなんとかする！」
「えっ、あ、うす！」
「じゃあ先輩、私は元のAさんに戻りますが、またよろしくお願いします！」
ぺこりと律儀に一礼して、その場を去ろうとしたその時。
「ぐえっ！？」
腕が引っ張られる感覚。あまりにも強い力で引っ張られたものだから、後ろに重心が傾く。思わず変な声も出た。
そのまま床にダイレクトに倒れるところ、ぶつかったのは別のものだった。
上を見上げると、先輩の顔。
「(なっ、なるほど？じゃあ私がもたれかかってるのは先輩か)」
状況を整理するも、よく分からなくなりそうで困惑しながら先輩の顔を覗き見る。
びっくりした。
「……なんでそんな辛そうなんですかぁ…」
いつもの笑顔はどこへ行ったのやら、先輩の表情は苦痛で歪んでいた。あのポーカーフェイスが崩れる回数も、今を入れて片手で数えられる程度だ。
私は思わず拍子抜けした。ぽかんとして、でもあまりにも放っておけなくて、とりあえずもたれかかっている状態から、先輩と正面から向き合う形に正す。
とりあえず、弟くんの方に言った。
「光君ごめんよぉぉぉ…巻き込んじゃったね…」
「俺は平気っす。けど輝兄は」
「平気平気、任せてくだせえ。ちょっと話し合うだけだから、戻ってていいよ」
「……うす」
ヒラヒラと手を振って、光君を帰した。この人、弟大好きのブラコンだろうし、こうでもしないと口も開かないだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 64人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
作者 - y.さん» リクエストありがとうございます。続編にて書いていきたいと思います。よろしくお願いします！ (2023年5月11日 20時) (
レス) id: 989ab1f730 (このIDを非表示/違反報告)
y. - リクエストですが良いですか？寧々ちゃんとショッピングしている時に源一家に出会ったというので。出来ればお願いします！ (2023年5月10日 18時) (レス) @page50 id: 3c29bdcb48 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時：2023年4月7日 3時
