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洞窟の入口はいかにも洞窟、という感じで、山の岩肌にぽっかりと大きな黒い穴が空いていた。
私を運んできた人々は、ただ、行け、とでも言うように顎をしゃくった。
特になんの抵抗もなく一人足を進めた私に、後ろから、信じられない、という声が聞こえた。
今までの生贄たちは、嫌だ、行きたくない、と泣きじゃくりながら縋ったのだろうか。
言い伝え通りなら、毎年毎年一人ずつここに生贄が運ばれてきたのだろう。私のように、何も知らないまま、突然に。
名前も顔も知らない同じ境遇の人々に思いを馳せた。「可哀想に」、と。
それと同時に、自分の冷たさに嫌気が差した。
生き物は、本能的に「生」に執着する。トカゲは生きるために自ら尻尾を切る。何かを失ってまで命だけは握りしめる。
だからこそ縋るのだ。だからこそ懇願するのだ。行きたくない、と。死にたくないんだ、と。
しかし私はどうだろうか。死んでも別にいい。生に執着はしない。自ら死地に足を向けた結果言われた言葉は、「信じられない」。
同じ目に遭った人に対して、「可哀想」。まるで他人事のように。
背筋がゾッとするのは洞窟の寒さ故か、それとも自分に対してか。
洞窟の中はジメッとしているというよりかは、カラッとした寒さだった。
思っていたよりも歩きやすい一本道は一向に終わりが見えず、永遠を彷彿とさせる。
もしかしたら今まで運ばれてきた生贄たちに意味なんて無く、この洞窟をさまよい歩くうちにその命が果ててしまったのではないか、とすら思った。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
吸血鬼なんていなかった、と村に引き返してやろうかとすら思った頃だった。
?「アッ、・・・・・・・ッス」
コミュ障の第一声、としか言いようのない声が聞こえたのは。
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Asuna(プロフ) - Eryngiumさん» Eryngiumさん、ありがとうございます!これからも頑張ります!! (11月27日 7時) (レス) id: ef68d1b102 (このIDを非表示/違反報告)
Eryngium(プロフ) - 完結おめでとうございます!心理描写がとても丁寧ですごく読みやすかったです。これからも活動を応援しています!! (11月27日 0時) (レス) @page22 id: 663ca84b4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Asuna | 作成日時:2023年11月24日 19時