月明かりの下で (ページ6)

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隣の席の子（視点：冬）ページ6

氷川さんは隣の席の女の子だ｡可愛らしい女の子で所作も丁寧｡
噂によると神社の一人娘らしく、礼儀作法はきちんとしているらしい｡
もともとこの地域に住んでいたみたいだけど、体調の都合で一時的に離れていたらしい。
そんな彼女は最近転校してきたばかりだけど､ようやく話せるようになった｡

｢変な影ねぇ…妖怪とかそういう系なのかな｣
｢妖怪か…その可能性もあるかもしれないね｣

えっ?と短く声が聞こえた｡声のした方向を向けば氷川さんが驚いた顔をして手を止めている｡
普段は冷静で時より笑う彼女の驚いた顔を見るのは初めてだった｡
そして僕の方を見ると意外そうにこう言った｡

「びっくりした…月浪君ってそういう系信じるんだね」

氷川さんの中では僕はそういう系に興味が無い男子として見られていたのだろう｡
僕はオーガを持っているし､何よりも見えているからね…なんて言えるわけもないので苦笑いを返すしかできなかった｡

｢そうだね、興味があるかな｣
｢そっか｣

そういった氷川さんの表情はどこか安心したような、「意外なことが知れて良かった」と言いたそうな顔をしていた。
僕よりも氷川さんのほうが「妖怪なんていないよね」って言いそうだから､意外と言いたいのは僕の方だった。

あ、でもまだ転入してそんなに時間がたっていないから氷川さんについてよくわかっていないだけかな…。
でも、こんなこと聞いてきたから氷川さんも興味あるのかな…？
何気ない一言なのに言葉がなかなか出てこない。
それでも少しでも近づけるように…と思いながら僕は質問をした。

｢氷川さんも興味があるの？｣

本当に何気ない質問なのに心臓がバクバクとうるさい。
当の氷川さんの方を見れば、肩が分かりやすくはねた｡
もしかして…と答えを待てば彼女はそっぽを向いて【どうだろうね】と答えを誤魔化した｡

「興味かぁ…持っちゃダメって言われてるかな。うん」
「…？」
(もしかして､妖怪が見えたりするのかな…?)

「興味を持ってはいけない」という言葉が引っかかった。
氷川さんはまるで秘密を聞かれそうになった感じで一生懸命に答えをはぐらかそうとしている｡
あれは興味が無いわけじゃなくて聞かれたくなかった事だったのかな…?

ふと浮かんだ疑問をぶつけようとする前にチャイムがなってしまい、放課後まで聞くことができなかった｡
結局、その日の授業は集中なんてできなくてもやもやとした気持ちを抱えたまま過ごした。