〈H×H〉Astrolabe・syndrome

シータ・タウリーは夜に咲く ページ1

何も無い田舎町。いつもと同じ帰り道

空に輝くカシオペア座

夜の灯りが蒼白く包み込むレンガ街を歩きながら、私は仕事帰りの疲れを癒すために自販機でホットコーヒーを購入する

ベンチに座ると、冷たい夜の空気が微かな音を運ぶ

「ﾜﾝﾜﾝ、ｷｬﾝｯ」

犬の鳴き声。そのまま立ち上がって行こうとしたけど、何か違和感が頭から離れない

衝動的に声のする方へ走っていく

大通りを横切って、路地。レンガ造りの建物が軒を連ねる中を行くとさっきの犬の鳴き声がより鮮明になる。
怯えているような、威嚇するような。

素早く角を曲がって見えた光景に、私は息を呑む

横たわる死体から流れるやけに明るい色の内蔵。
真っ黒の長毛がもつれた大型犬は、横たわる主人を守るように長い黒髪の男を威嚇している

『何して…』
　
動悸のような息苦しさを堪えながら犬と長髪の男の中に入る

私に視線を向ける殺人鬼。大きくて綺麗な猫目とサラサラの髪は男なのか女なのか私を混乱させる。殺人鬼の手元の刃物が光った

「誰。」

『わんちゃん、逃げて、早く！』

殺人現場に遭ったらこうしましょう。なんて、人生で受ける教育は肝心なことを教えてくれない

一瞬だけ、何かの残像が過って頭を振る

今は目の前のことだけ考えないと、確実に死ぬ

逃げろと指示されたはずの犬は、横たわった飼い主から離れるつもりはないのか、動く気配がしない

これは、犬好きなのを呪うしかないのかな、、

「ねぇ、聞こえてる？」

『鮮明に聞こえてます！』

殺される。鋭く殺気を放つ目から本能的に感じた瞬間、私は死体を側を流れる小川に落とす

もしかしたらまだ死体じゃないかもしれない。とにかく、あの死体を退かさないと犬も、、

舌打ちが聞こえて、殺人鬼に髪を鷲掴みにされたのが分かった

月明かりによく透けた黒髪が風になびいて陶器のような肌を隠す

「あーあ。めんどくさい」

肺から空気が漏れる音は何故か聞き覚えがあった。

ずっと、ずっと前に。

『ゲホッ！』

視界が赤に染まると、眠気よりも激しい暗い波に襲われる


私の意識が途切れたのは夜空の星と、端整な殺人鬼の顔が重なってすぐだった





￣￣

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