黎明の手記 (ページ8)

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瞬間、ぼう、と音がして、暖炉の中が明るくなる。

｢流石は我が夫｣

彼の足元から抜け出し暖炉の近くへと転がり込めば、少し熱いくらいの温度が傍へとやってきた。

｢暖かい…やはり炎こそ全て……世界…｣

｢そんな物に全てを任せるな｣

｢言葉の綾じゃないか。どうせ夏になったら『水が全て』とか言っているよ、私は｣

背を丸めてから、暖炉の傍で転がって。

そのままだらんと身体を伸ばした私を見た彼が、お前と言う奴は、と書類へ八つ当たりをした音がする。

氷のようだった部屋の空気が、少しずつ温められて溶けていく。

｢あ～～～～～｣

｢……｣

｢どうしたんだいルシファー。紅茶でもご所望かい｣

｢……そうだな｣

好きにしろとのご返答を頂いたので、転がるように起きた私は、ま～雑に紅茶の用意を始めた。

ところで諸君。

とても今さらだが、この研究所で彼の頭を悩ませる大半は、実は評議会でも研究でもなく、私だと思っている……と言うか、私にもその自覚くらいはあってだね。

だからと言って行動を改めるつもりなど無いのだが。

彼とはそれなりに長い付き合いだが、我ながらよくもまぁこんな訳の分からない女といるものだ、とは思ってる。

｢ほら｣

書類を投げ渡す要領で、液体の入ったカップを投げ渡す。

机の上をスライドしてったカップは、中身を溢す事無くルシファーの手元へと辿り着いた。

｢雑な女だな｣

｢雑に暖炉に火を付ける男の妻だからね｣

｢それもそうか｣

ズズッと、紅茶を啜る音がする。

｢おや？ルシファー、外が｣

ふと見た窓の向こう側で、白い雪が降り出していた。

｢熱いな｣

｢寒い部屋で仕事をしていた我が夫への計らいだ、ありがたく受け取りたまえ。と言うか話を聞きたまえ君は｣

知らん、と一蹴された言葉をよそに、降雪はどんどん勢いを増していく。これは明日が楽しみだ。

きっと、私の部下が『雪合戦しましょう！！』とドアをぶち破ってくる。

私は是非ともご参加させて頂く所存だが、まぁこの男はやらないだろうな。
　

｢ははは、ルシファー、明日はドアが壊れるよ｣

　
そう笑う私へ、彼の微妙な表情だけが向けられた。