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「天司長」
暗い外を歩いていると、先程、一緒に出てきた青年が口を開いた。
「あの御方が……A様が、貴方を好いていたかと言われたら、それはきっと否でしょう。でも、愛していなかったと言われたら、それもきっと否だと思います」
突然の会話に、足を止める。
「好いてはいないが、愛している、とは」
「言葉のままです。その性格や性質を好いてはいなくとも、貴方の事は愛していたのだろうと」
「……それは、矛盾しているのでは」
「心とは矛盾するものであると、A様が仰っていました。生物として好いていない事と、存在を愛していない事は、あの御方の中で別だったのでしょう」
彼が、なぜ私にそんな話をしたのかは分からない。
ただ分かるのは、彼は彼女の忠実な部下であり、彼女が私を好かずとも愛していた事を告げた現実だけだ。
「あの御方の望まない事を、私達は望まない」
「?」
「……あの御方は、貴方の死を望まないでしょう。だから私達も、貴方の死を望まない」
――天司に、物理的な死の概念があるかは知りませんが。
そう言った青年は深々と頭を下げ、静かに続けた。
「ですから三日後、どうかご無事で」
逃げるなと言う牽制に、私は「了解した」と返すしかなかった。
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アキ(プロフ) - リクエストに応えていただきありがとうございます!更新されてるのをみてすぐ飛んできました!これからも楽しみにゆっくりと読ませていただきます! (2021年11月25日 6時) (レス) @page20 id: aa044e7ab8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:*Reno | 作成日時:2020年10月5日 5時