黎明の手記 (ページ20)

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獣に人らしい表情は無いが、その声色が真実を表しているのは明らかだった。

｢だとすれば……｣

彼女が殺された理由は――？

彼女は研究所の人間と比べたら非常に柔和で、社交的と言える部類だ。

彼女の立場を面白く思わない人間は勿論少なからず存在するが、表立って友に『アレが気に食わない』と言える者は数少ない。

二人は客観的に見て、非常に仲が良いと言える。
ベリアルは常に『仲の良いご夫婦で』と二人を揶揄していたし、他の天司……或いは彼女の部下達も、二人を指差し『研究所で一番仲が良い』と言っていた。

例え友に進言できたとして、彼がそれを実行する事は無いだろう。

互いの性格からしても、些細な一言がここまで至るとは考えにくい。

ならば、やはり答えは一つしかないのだが。

｢…………君は……彼女が預かっていた獣だったね｣

再び獣の方を見る。

｢報告ご苦労だった｣

もう行きたまえ、と言うと、獣は暫し踏みとどまろうと足踏みをした後、私に背を向け、外へと向かって歩きだした。

獣が去るのを見送り、室内へと視線を戻す。

材質的に、意図的に傷付けようとしても難しいだろう壁や床。

何かから何かを守るために作られたような、防御壁にも近いそれに、引っ掻き傷どころか、砕けたような跡がある。

｢認めたくはないな｣

認めたくはない、が。

紛れもない証拠が残っている。