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ほんの少し、くすぐったいな。たぶん、ふわふわの髪の毛のせい。
この場を動くことができないし、話し相手もいなければ本もない。手持ち無沙汰で、なんだか寝てしまいそうだな。
「…あ」
何かないかな、と少し考えて、今だから触れられるものを見つけた。
ちょっとだけだから、と誰にともなく心の中で言い訳をしながら、彼の手を取ってみる。
あたたかい…私の手、少し冷たいみたいだから、びっくりさせていないといいけれど…。
私のものよりも大きくて、手のひらは少し硬い。それに、厚みも違う。こんなに真剣に人の手を見るのは初めてだけれど、結構面白い。手相占いの心得でもあれば、手のしわや形から男の子だなぁ、という感想以外に、何かが読み取れるのかな。
しばらく指先や手のひらを眺めたり、軽く押してみたりしてから元の位置に戻す。
眠くなってしまう原因、することがないからとか、彼の体温が制服越しに伝わって来てなんだかほかほかするから、というだけではなさそう。
この場に流れる空気が、とっても穏やかだから。少し遠くに聞こえる賑やかさが嘘みたい。
彼はたくさんの人を惹きつける人だから、周りはいつも賑やかで…私は、物静かで落ち着いているところが好きだと思っていたけれど。周囲がどれだけ賑やかでも、彼の近くにいるとなんだかほっと落ち着いてしまうのだから少し不思議だな。
空と、彼の寝顔と、作業の様子を見ていたら、一旦中断して一か所に集まり始めた。休憩かな？もうお昼…？私たちは…放置？
悠馬くんもお昼ご飯は、食べられるのなら食べた方がいいと思うけれど…起こした方がいいのかな、それとも、こういう場合は起きるまで待つべきなのかな。
看病の経験なんてないから、よくわからないのだけれど。
…こういう時、ほんの少し離れた場所にいる彼らと、連絡を取る手段が無いのはすごく、不便だな。大きな声なんて出したらどうしたらいいとかを聞くよりも先に起こしてしまいそうだし…出せる気もしない。
「…あ。悠馬くん、おはよう」
「…ん…んんっ、った！？わ、悪い大丈夫か！？」
「うん…平気…」
どうしよう、と悩んでいるうちに、目を覚ましたみたい。
ぱちりと目が合って、慌てたように起き上がった悠馬くん。額同士が音を立ててぶつかった。痛い。
「か、顔洗ってくる！」
「…だ、だいじょうぶ…？」
何故か若干声を裏返らせながら、逃げるようにいなくなってしまった彼の顔色は…真っ赤。熱のせい？
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作者名：nano* | 作成日時：2022年3月4日 18時
