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「…浅野くん、君と理事長の乾いた関係はよく耳にする。ひょっとしてお父さんのやり方を否定して、振り向いて欲しいの？」
片岡さんが尋ねる。…でも、それはなんとなくだけれど、浅野くんらしくない。違う…と、思うな。
「勘違いするな。父親だろうが蹴落とせる強者であれ。そう教わって来たし、そうなるように実践してきた。人はどうあれ、それが僕らの親子の形だ」
彼女の推測を否定して、続ける。
「だが、僕以外の凡人はそうじゃない。今のA組はまるで地獄だ。E組への憎悪を唯一の支えに、限界を超えて勉強させる。もしあれで勝ったなら、彼らはこの先、その方法しか信じなくなる。
敵を憎み、蔑み、陥れることで手にする強さには限界がある。A組は高校に進んでも僕の手駒だ。偏った強さの手駒では、支配者を支えることはできないんだ」
E組に対する表現が一切変わっていないのも、傲慢な本心を隠すこともしないのも、彼が心からの言葉で話していることの証明なのだと思う。
正しい敗北を僕の仲間と父親に。プライドの高い彼が、私たちに頭を下げた。本気で誰かを気遣っている。やっぱり、浅野くんは優しいな。
「え、他人の心配してる場合？今回Aちゃんと並んで1位取るのは、君じゃなくて俺なんだけど」
べーっと舌を出して挑発する赤羽くんと、イラっとした表情を見せる浅野くんに、思わず苦笑してしまう。
「言ったじゃん、次は全員容赦しないって。1位は俺とAちゃんで、その下もE組。浅野クンは10番辺りがいいとこだね」
「…ふふ。そういうことだよ、浅野くん。私たちはちゃんと戦って、ちゃんと、勝つつもりでいるから。だからね、浅野くんも本気で、また私の隣に並んで見せてよ」
1年生の時、テストで同率1位をとったこと。それが、私と浅野くんが仲良くなれたきっかけだったと思う。彼が本気を出してくれないと、赤羽くんも、他のみんなも、張り合いがない。
「余計なこと考えないでさ、殺す気で来なよ。それが1番楽しいよ」
赤羽くんがスッと首を切るジェスチャーをして笑った。
「面白い、ならば僕も本気でやらせてもらう」
彼の殺す、という言葉の中にある真剣さに、ほんの少しだけ動揺したように見えた。けれど、それも一瞬のことで、先ほどまでのしおらしい姿が嘘みたいに、不敵に笑う。いつもの浅野くんだ。よかった。
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作者名：nano* | 作成日時：2022年3月4日 18時
