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Episode,13 喧騒 ページ4




自分の弟が可愛いあまりに、
この状況に甘んじていた。


昼も夜も分からない真っ暗な部屋。
いつもとは違う喧噪の中、私は目を覚ました。

手錠はもうすでに外されている。

自由になっても尚、

弟のために行動を起こしたい自分と


弟のために行動せずにいたい自分とが

心のなかで鬩ぎあっていた。


『……鳴女さん』


少し怖くなってしまった自分に、


いつの間にこんなに弱くなったんだ、と


嘲笑した。


声をかけても、
常に返事をかえしてくれるはずの鳴女の声はない。

ならば、彼は?
私の声に常に返してくれる彼は……。


『無惨』


恐る恐る口を開き、
震えるようなか細い声が空気を動かした。

突風が吹く。

目をつぶろうとするよりも先に、


噎せ返るような血の匂いに鼻が反応した。


「姉さま、お目覚めですか」

『何があったの?昨日、夜伽をしてくれた時は何の素振りも見せていなかったけど』


私がそう問えば、
無惨は困ったように眉をㇵの字にして微笑んだ。

そして私の手を握り、

片膝をついて

目線を合わせた。


「何の心配もありません、姉さま」

『血のにおいがするよ、無惨。本当のことを話して』

「いつもより少しだけ手ごわい人間を招いてしまっただけです」

『……嘘だ』


無惨は「姉さま」と吐息のような呟きを漏らした。


『鬼狩りを一網打尽にするつもりなんでしょう。
 無限城へと柱までを呼び寄せたのでしょう。
 
 無惨は、他の鬼と共に戦うつもりなんでしょう?』


少しだけふざけて、『高みの見物はやめたんだ、えらい、えらい』と言った。
それでも無惨は引きつった笑みを浮かべていた。


『私にも戦わせてほしい。
 たとえ、

 無惨にとって足手まといでも』




『それが嫌なら』


私は無惨の手を振り払って
立ち上がった。

縋るものを失った手が
空を掻いて

真っ赤な瞳が湖面のように揺らめいた。


私は絵筆を取り出す。


『今すぐに、ここで私を殺しなさい』


真っ赤に濡れた絵筆は、

いつも以上に

綺麗に物が描けるような気がした。


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三千幸 - 雨雲さん» うへぇ、そんなに言ってもらえるとは光栄です……( 三甘*´艸`) (2019年12月9日 19時) (レス) id: d839c37112 (このIDを非表示/違反報告)
雨雲(プロフ) - マジで最高なんですけど、、え、マジで(語彙力) (2019年12月8日 22時) (レス) id: 75cba6923f (このIDを非表示/違反報告)
三千幸 - 蓮さん» アリガトウゴザイマス―――! (2019年12月3日 19時) (レス) id: d839c37112 (このIDを非表示/違反報告)
- 面白いいいいいいいいいいいいいいい! (2019年12月3日 19時) (レス) id: 947501fbf1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:三千幸 | 作成日時:2019年12月2日 21時

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