9.無慈悲な人達。 ページ9
『私1人で帰るなんて嫌です!私も連れてってください!』
「手負いの者を任務に連れていくわけにはいきません。
しかも折れたのは利き腕ですし、それで鬼なんか切れるんですか。」
Aの腕へ視線を落として胡蝶が言う。
『…じゃ、じゃあ一緒に蝶屋敷へ帰りましょう?出発は明日でも良いんですよね。』
すがるように胡蝶…ではなくカナヲの片腕を左手で掴むA。
ダメ元覚悟で、ほとんどやけくそである。けれど少しの可能性を期待してちらちらと胡蝶の様子を伺う。
「蝶屋敷とは方向が真逆です。それに距離もそこそこある…調査も含めてなるべく向こうに早く着きたいんです。」
『…う〜、ですよね。…ごめんなさい。』
任務の邪魔はしたくないのか、Aは渋々カナヲから離れて縮こまる。
それでもまだ煮え切らない表情をしている彼女に、胡蝶は怪訝そうに眉を上げた。
「一体今日はどうしたんですか?いつもなら1人でも問題なく帰れていたでしょう。」
『……いんです。』
「はい?」
そう聞き返す胡蝶に聞こえるように、今度ははっきりと告げた。
『ぶっちゃけ、昨日の怪談話が怖すぎて一人で帰るの超こわいんです!』
Aの声が、高らかに響いた瞬間であった。
「帰りなさい。」
『…はい。』
そして、胡蝶による無慈悲な判断が下された瞬間でもあった。
***
『……うぅ…絶対なんか出る。』
ガクガクと震える足を無理やり前に出し、状態の悪い山道を進んでいく。
せめてもの防衛のつもりで、私は自身の体を左手で抱き締めた。
…師範、酷いじゃないですか!
あんなサラッと可愛い弟子を置いていくなんて!昨日めっちゃ怖い怪談話したくせに!
どうしてこんな怖い道1人で歩かなきゃいけないの!…いやまあ、怪我したのは私ですけども。
…いやでも、あんな猛スピードで逃げなくても良くない?1度も振り返らなかったのよあの人達!
瞬く間に点になって消えていった師範と姉弟子の背中を思い出し、余計に涙が溢れてきた。
『…ギャア!?』
後ろの茂みから物音がして思わず叫ぶ。跳ねるように逃げ出して、目一杯距離を取ると恐る恐る振り返った。
『な、なんだ狸か……。』
言葉とは裏腹に本格的に震えだした身体を何とか歩かせる。…本当に何か出る前にとにかく屋敷に帰らなくちゃ。
『……ッ!?』
そんな時、何者かが私の両肩を思い切り掴んだのだった。
「…ばあッ!」
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美穂(プロフ) - こんばんは☆これからの更新楽しみにしてます♪ (2020年12月4日 0時) (レス) id: f672b2976e (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - 我妻ライさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます!がんばりますね( *´艸) (2020年11月6日 22時) (レス) id: e457bdd78b (このIDを非表示/違反報告)
我妻ライ - 面白いです!更新がんばってください!( ´∀`) (2020年11月6日 17時) (レス) id: 895c90ff24 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:作者 | 作成日時:2020年9月18日 22時