1.『何の用だったんだろう?』 ページ1
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「……。」
『……?』
道のど真ん中で、対峙する2人。
任務の帰りだったAは、目の前の上司…冨岡義勇からガン見されていることに若干居心地悪そうにしながらも次の言葉を待っていた。
つい数十秒前に彼女を引き留めた冨岡は、何も言わずただただ彼女を見つめているだけ。
彼の視線に耐えかねたAが俯くと、高く結われた髪が静かに揺れた。
『…冨岡さん、見すぎです。』
「…すまない。」
そう言いながらも特に顔色を変えず淡々と告げるAと、一言謝ってから顔を逸らす冨岡。…こちらも無表情。
何とも言えない空気が流れた後、冨岡がそろりとAの方へ距離を詰めた。
「……髪を結ったのか。珍しいな。」
彼の手が伸びて、Aの結われた髪を指先で掬いとる。
『最近暑くて。髪おろしてると蒸れちゃうんです。』
「冨岡さんとお揃いですね」と続けてから笑うAを、無意識に眺める冨岡。
指先の力が緩まり、柔らかい髪の毛が手のひらからすべり落ちる。
「……と…」
『と?』
少しの沈黙の後、そう言いかけた冨岡から続きを聞き取ろうとAが顔を近づける。
今度は冨岡が俯く番だった。
「………何でもない。」
ぎこちなく手を引っ込めた冨岡は、彼女が何かを発する前に背を向けてどこかへ行ってしまった。
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「(とても似合っている、と言いたかっただけなのに。うまくいかないな…。)」
じっとしていることができず、木々の間をひたすら跳びながら移動する冨岡。
似合っている、似合っている…と呪文のように小声でぶつぶつと繰り返した。
……彼は引くほど口下手である。
そして、感情を表に出すのが極度に苦手なのだ。
冨岡は、胡蝶しのぶの継子であるAに恋心を抱いている。しかもそこそこ長い間。
しかし、その性格のせいかなかなか気持ちをつたえることが出来ないでいた。
先程も、ただ単にポニーテールが似合っていると言いたかっただけなのだ。……結局、上手く伝えられなかったのだが。
天然な性格のおかげか行動には移せるのだけど…肝心な言葉が伝えられないのだ。
「(でも、Aが髪をお揃いだと言ってくれたな…ムフフ。)」
髪を結っていて良かった、と彼がふわふわした足取りで帰途へついたのは誰も知らない。
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美穂(プロフ) - こんばんは☆これからの更新楽しみにしてます♪ (2020年12月4日 0時) (レス) id: f672b2976e (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - 我妻ライさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます!がんばりますね( *´艸) (2020年11月6日 22時) (レス) id: e457bdd78b (このIDを非表示/違反報告)
我妻ライ - 面白いです!更新がんばってください!( ´∀`) (2020年11月6日 17時) (レス) id: 895c90ff24 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:作者 | 作成日時:2020年9月18日 22時