佰陸拾陸 ページ16
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気付けば、背を丸めたまま満開の藤の中に佇んでいた。
出血は治まったようだ。出る血がほぼ無くなったとも言えるかもしれない。
浅い呼吸音だけがその場に響く。
『………………』
美しく咲いていた藤を手に取り、幾分か口に含んだ。
美味しくは、ない。
『……ッはぁぁ…………』
近くの木の幹に肩を預け、座り込んだ。
手の中の刀を見下ろすと、組紐の解けた髪がさらさらと前に落ちてくる。
長さが不揃いだ。せっかく伸ばしていたのに、切られてしまった。背中を斬られた時だろうか。
刃を握り締めていた掌は、乾いた血がこびりついて上手く動かせない。
痛みは感じない。そういえば、背中ももう痛くなくなった。麻痺でもしたかな。
『(…十二年間、世話になった刀を……)』
初めて、折ってしまった。
もうこの刀とは一緒に戦えないのか。
『(…寂しい…虚しいな……)』
駄目だ、もう、眠い。
見上げれば滲んだ視界で藤の花が揺らめいている。
『(……あぁ、綺麗だな…良い夢を見られそうだ…)』
そのまま、ゆっくりと、瞼を閉じた。
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らっつ - 久々に見に来たら更新されてびっくり。素敵なお話をありがとうございます! (8月31日 22時) (レス) @page25 id: c7494693fb (このIDを非表示/違反報告)
透水 - 終わり!?続きは無いのでしょうか… (7月21日 13時) (レス) @page25 id: e8fae7b723 (このIDを非表示/違反報告)
とく(プロフ) - 面白いです、続き待ってます!! (7月21日 0時) (レス) id: 72e740ca3a (このIDを非表示/違反報告)
ppp - 更新、本当にありがたいです!いつまででも待っております。更新よろしくお願いします! (7月20日 10時) (レス) @page25 id: 746217eb38 (このIDを非表示/違反報告)
Kさん - うん.....泣きましたぁ( ;∀;) 本気と書いてマジで (6月15日 14時) (レス) @page25 id: 91d89c4fce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:M2 | 作成日時:2020年6月4日 20時