xxxix ページ46
「母さん、手術しなければならないそうだ。」
ある日。
いつものように疲れた顔をした父が、そういったのを覚えている。
入院している妻のために、学校に行っている娘達のために、遅くまで働いてくれている父。
「手術するためには、お金が必要なんだ。」
そんな父が、帰ってくるなりそう言ったのだ。
短い言葉だった。
…が、言わんとしていることを理解するには、あまりに十分だった。
「………すまない。」
そう言って、涙を流す父に、なんと言葉をかけるのが正解だったのかは、未だに分からない。
父のように、涙を流すのが正解だったのか。
妹のように、その場に崩れ落ちるのが正解だったのか。
『………』
…分からない。
母の命が、あと少しだということを理解するので、精一杯だったのだから。
_________
リツ「……い、なにしてんだよ。」
『…っ!』
意識が、戻された気分だった。
いや、実際そうなのだろう。イライラしていて、まわりの状況になんて全然注意が向いていなかったのだから。完全に、油断していた。
教室から出た後、気分も機嫌も最悪でたまらなかった自分は、無理やり落ち着こうと病室を訪れていたのである。
時間が経てば経つほど、頭の中に鮮明に流れる声と記憶。
…落ち着きなどしない。むしろ、余計にイラつきが増すばかり。
その、矢先。
神木ちゃんの声にハッとして後ろを振り返ると、そこには霜月君が焦った表情をして立っていた。
自分と視線が交わると、さらに慌てたように喋りだす。
ユキナリ「ご、ごめん。体調悪そうだったから、声をかけようと…」
リツ「…ほんとかぁ?」
疑いの眼差しを向けながら、ずんずんと霜月君に近づく神木ちゃん。
ゴクリと唾を飲む。
背筋に、冷や汗が流れる。
油断していた。
感情的だった。
"自分"を見失っていた。
なにを勝手にイラついて、怠ろうとしていたんだ。
口角を、にっと、あげた。
『なぁんだ。狼かと思って、捕まえようと待ってたのだけれど。
いやぁ、危なかったよ。人の親切心に仇で返すところだったね。』
いつもの表情、いつもの声で。
正真正銘、でたらめだ。
しかし、日頃の行いの成果か、信じてくれたらしい霜月君は引きつった笑みを浮かべて自分や神木ちゃんから距離をとった。
ユキナリ「そ、それなら止めてもらえて良かったのかもね…。
狼と誤解されて捕まえられなくて良かったよ…。」
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クライヤ(プロフ) - なかねこさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます!読んでくれて嬉しいです!!!!!!!!わわ、気が合うなんて、嬉しいっっ。これからも更新頑張ります!!!!!!!!!! (2022年3月18日 7時) (レス) id: 8a85863d1f (このIDを非表示/違反報告)
なかねこ - キミガシネの方から来ました!オリちゃんの方も良かったけど狼ゲームの方も凄く良きです!私クライヤさんと気が合うかもしれぬ...更新いつも楽しみにしてます! (2022年3月17日 19時) (レス) @page45 id: c7c3a69365 (このIDを非表示/違反報告)
クライヤ(プロフ) - コメントありがとうございます!!!主人公ちゃん人気で嬉しいです!!更新これから頑張ります! (2022年2月26日 5時) (レス) id: 8a85863d1f (このIDを非表示/違反報告)
詩音 - みんなこの主人公大好きだよね‼︎私も‼︎ (2021年12月21日 20時) (レス) @page10 id: 431a156ded (このIDを非表示/違反報告)
青いG(プロフ) - クソ好きです!!!!キミガシネの方も楽しみながら見させていただきました!!!!狼ゲーム大好きなんで、めっちゃ見させていただきます!!!!!!!まいどまいど主人公ちゃんがどタイプです!!!!!ありがとうございます!!!!!(?)更新頑張ってください!!! (2021年11月19日 21時) (レス) @page9 id: 43df3075c0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:クライヤ | 作成日時:2021年8月13日 16時