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まぁ一重に厳しいと言っても、何かあって怒鳴るような人ではありませんでした。むしろ静かな方でして…………そう。本当に、怒る事はそう無く、言葉も強くはない筈なのですが、私はあの御方の声には、何か圧のようなものがあるように感じていました。それを自身が意識的にやっていたのかは、やはり分かりませんが。……そのせいか、私はあの御方の目を見て話すことがどうしても苦手でした。後でも話す事ですが、私は基本、人の目を見ていなければ話ができない(たち)なのです。しかし、あの御方とは目を合わせるだけ、はたまた目を見ないまま口を開くだけでも、なかなか難しく感じていたものです。至極(しごく)奇妙な話ですが、あの御方は私にとって父親という一番近い人物である筈なのに、まるで他人であるかのような感覚がありました。勿論他人にここまで目を掛けるわけはありませんし、歴とした親子なのですが……他人であって目を掛けるというと、まるで養子────嗚呼、そう言ってしまうのは流石に駄目ですね。失言でした。……もし本人が今の失言を聞いていたら、恐らくさぞかしお怒りになられることでしょう。……あの御方は、家族に関わることとなると、普段の静かな様子が嘘であるかのように熱くなられます。というより、元々普段から熱い御人なのです。静かな御方だとは言いますが、それはあくまで態度、目に見えるところの話に過ぎません。厳格、というのは、それ程(まで)に規律というものに熱を持っているということです。つまりあの御方というのは、熱さ故の厳しさを持ち合わせており、更に言えば非常に家族思いな人物、ということだったわけですね。えぇ、そうですね、それで思い出した事があります。あまり良い気のする話ではないのですが……。

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作者名:蟻蟀 | 作成日時:2022年10月21日 15時

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