橄欖の側にて咲く青薔薇の密かな望み。そのキュウ (ページ23)

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ヨンヒャクジュウゴ話ページ23

搭乗時刻二分前に搭乗口まできた私達はキャビンアテンダントさん達の迅速な連携によって、無事に成田空港行きの飛行機に搭乗して指定の座席へと座ることが叶った。

雪崩れるように座って咳き込む私とウェイバーさんに対し、流石サーヴァント。

息一つ乱れてはいなかった。

「大丈夫ですか、A様。何か飲み水をもらってきましょうか」
「へ、平気です……。ごほっ」
「……」

それでも離着陸のためにシートベルトは装着しないといけないため、キャビンアテンダントの指示に従ってシートベルトを着けて、呼吸が整うように大きく息を吸っては吐くを繰り返すこと何度か。

エンジン音が鳴り響く頃に私はどうにか少しだけ呼吸が正常になりつつある。

隣のウェイバーさんはまだ時間がかかりそうだけど。

一声掛けてから彼の背中に手を当てて撫でながら、窓の外へと視線をやると滑走路を走行しているためか座席に強制的に凭れさせられた。

「っ、すまないA。もう、平気だ」

ごほっとまだ咳き込んでいるウェイバーさんだけど、もう少しで呼吸も整いそうなので座席と彼の背中に挟まっている私の手を抜く。

咄嗟に強化魔術を使ったのか、痛みはない。

ウェイバーさん越しにランサーを見ると、彼も私を見ていたようで目が合った。

すると優しく微笑まれてしまったのだけど、何名かの女性の小さな悲鳴が聞こえてきた瞬間に顔をしかめてしまった。

少しだけ残念だと思いつつも少しだけ赤くなっているであろう頬を冷ますため、それとウェイバーさんからの視線から逃れるため、窓の外を眺める。

既に機体は宙を飛んでいるようで、かなりの速度で地上が離れていく。

「……」

冬木市にきて約二ヶ月。

体感では半年ぐらいこの地にいた気がするけど、それでもその二ヶ月の間に新しい出会いと悲しい別れ、嬉しい再会が色々とあった。

出会った人達の顔を思い浮かべ、亡くなった方々の顔も思い浮かべ、再会できた人達の顔を思い浮かべ。

そっと窓に手を添えて、心の中で感謝の言葉を。

沢山の人達のお陰で、私は帰国することが叶ったのだから。

「？」

外を見るとうっすらと雲の中を飛行しているみたいだけど、視界に一瞬だけ何かが見えた気がした。

「どうかしたのか、A」
「……いいえ。何もありませんよ、ウェイバーさん」

呼吸が整ったウェイバーさんの問いに、きっと気のせいだから、なんでもないと返す。

誰かが私に手を振っていたように見えたなんて、きっと気のせいだから。