橄欖の側にて咲く青薔薇の密かな望み。そのサン

ヒャクジュウキュウ話 ページ23

冬木に来てからだけど、眠ると時々“誰か”の夢を見る時がある。

それは主観的だったり客観的だったり。

ただ、確かなことはそれはエンセイに関係することなのだろう。

以前ランサーの時もこのようなことがあったから漠然とだけどそう思った。

のだけど。

「！」

思わず飛び起きた。

周囲を見渡せば真っ黒(・・・)ではなく、いつも寝起きをしている明るい寝室だった。

ーーどうしたマスター、酷い顔色だぞ。

アサシンの念話に答えてあげられる程の余裕が今の私にはない。

今の夢は何だったのか。

呼吸が荒い、肺が酸素を必死に取り込もうとしている。

胸に手を当てて、どうにか落ち着かせようとして大きく深呼吸をして。

鼻腔を掠める香りに、少し落ち着いた。

「……恐ろしい夢を見ました」
ーー俺の記憶か？
「いいえ。アサシンの記憶ではありませんでした」

アサシンの記憶は既に読んで(しって)いるので違うとわかる。

「よく、わかりません。ただ、酷く恐ろしいモノで」

アレが何か、と問われたら正直なところ兄のように博識ではない私の知識では、説明できない。

ただそれを一言で表すのなら。

「カタストロフィー、でした」

全てが最悪な結末、何もかもが手遅れ、そして絶望。

これでもまだ的確に言葉を表せていない気がするけど、私が知っている言葉の中で一番近いもの。

ーー水を持ってくる。
「いえ、必要ありません。自分でキッチンに取りに行きますので」
「いいからマスターは寝てろって、まだ震えてんだから。な？」

霊体化を解いたアサシンの説得によりベッドの上で寝室を出て行く彼の背中を見送って、待った。

手を見れば確かに震えていた。

「ほい、水」
「……ありがとうございます」

直ぐに戻ってきたアサシンが飲料水が入ったペットボトルを差し出してきたのでお礼を言って、まだ震える手でキャップを開けて飲む。

冷蔵庫に入れていたために冷えた水は、喉を潤し混濁とする思考を冷静に戻してくれる。

「落ち着いた？」
「はい。ありがとうございますアサシン」
「どーいたしまして」

ぽんぽんと頭を撫でてくるアサシンに子供扱いされているとわかっているけど、気にしてはいけない。

むしろ撫でられて嬉しいと感じている辺り、心が疲弊しているに違いないだろう。

アサシンから置き時計を見れば夕方の四時。

そろそろまた、門番のための準備をしなければ。

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