橄欖の側にて咲く青薔薇の密かな望み。そのサン

ヒャクサンジュウハチ話 ページ42

夕方五時。

リビングの窓から差し込む日の光は赤く。

ーーなぁマスター。流石にずっとだと疲れない？
「疲れません」

かれこれ一時間近く電話機の前で私は待機している。

兄は夕方に電話すると言っていたから、午後四時からスタンバイしていた。

一度目は電話が出るのが遅いと言われてしまったから、次は電話機が鳴った瞬間絶対に取るつもりだ。

のちにアサシンに、獲物を狙う獅子の如く鋭い目付きだったと言われたけど当時の私は知ることもなく。

神経を研ぎ澄ませ、目と右手に全魔力を集中させる。

つもりで待った。

ひたすらに待った。

待って、待って、午後五時四十七分。

「！」

電話機が鳴った。

鳴り響こうとするコール音が響き渡る前に、受話器を奪い去るように取り、耳に当てた。

「兄様！」
『ハズレ』

聞こえて声は兄の声ではなく、聞き覚えのある女性の声であった。

「ソラウさん!?」
『久し振りねA』

驚き過ぎて一度意味もなく受話器を見てしまった。

『元気にしてたかしら？』
「はい。ソラウさんはお元気でしたか？」
『まぁまぁよ』

まさかのソラウさんだった。

「兄様は？」
『ケイネスは所用で出かけているわ。だから私が代わりに貴方に伝言を伝えるのよ。私じゃ不満かしら？』
「そんなことありません！」

そうか、兄は用事か。

少しばかり落胆の気持ちがあったけど、それ以上にソラウさんとお話し出来ることに嬉しく思い、ソラウさんに伝言の内容を尋ねた。

『”聖杯戦争に関連する書物を調べたが、なかった“とのことよ』
「……そうですか」

やはり私の記憶は間違っていなかった。

同じクラスが召喚されるだなんて、あり得ないことだ。

黙り込んでしまった私に、電話口の向こうのソラウさんから溜め息が一つ。

『悩んだところで解決策が見つからないのなら、次のことに進んだら？』
「そう、ですね」
『そんなことよりも』

私を気遣って別の話をしてくれるソラウさん。

このような所も兄は惚れたのだろう。

主にそちらではどうか、ユイネスくんは元気だということ、最近面白いことはあるか等々。

私は兄との夫婦仲は良いかもさりげなく確認。

なんだかんだで愛されている兄に少し嬉しく思うけど、もう少しだけ優しくしてあげてほしいという妹心。

『どうしてかしら？ あの人直ぐ表情に出るのが面白いのだから、少しくらいきつい態度の方が楽しいわ』
「あ、はい」

私では力不足でした、すみません兄様。

と心の中で兄に謝罪をした。

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