ロク話 ページ8
目の前で微笑む女性に警戒が解けないのは、彼女が所属する部署のせいだと思う。
「そう警戒なされないでください。貴女にとって、決して悪い話ではないかと」
「……」
真向かいの席て優雅にお茶を飲む姿は優美としか言えないけど、日本の伝統衣装である着物と呼ばれる服とティーカップがどことなく違和感があるのは私が見慣れていないせいかもしれない。
今現在、私は時計塔の法政科に属する彼女──
たまたまか、それとも狙ってか、私がライネスちゃんの側から離れて一人になる本の少しの時間に彼女が声をかけてきたのが始まり。
彼女はこう言った。
少しお話がしたい、と。
法政科相手にエルメロイ派の一員として楯突くことはよくないうえ、目を付けられたら敵わない。
ゆえに頷くとカフェテラスへと案内され、一緒にティータイムをするという謎の事態になってしまった。
出されたアールグレイには手を付けず、じっとメガネが良く似合う彼女を睨む。
周囲には人避け、いや、これはただ私と彼女の会話を聞こえないようにしているだけの簡易結界が張られている。
助けを呼んでも、もちろん解除するまで回りには聞こえない。
「……一つ、尋ねてもよろしいですか」
「えぇ。私でお答えできるようなことでしたら」
「どうして、私が貴女の同行人としてアッシュボーンの城へ行かなければならないのですか」
彼女は何故か私を同行人として選びたいと言う。
関わりなんて、つい先程彼女が声を掛けてくるまで一切なかったというのに。
自然と睨むようになってしまう私の目を、彼女はメガネ越しに見てきて穏やかに笑う。
穏やかという表現が正しいかどうかはわからない。
でも、確かにふふっと口角を上げて笑ったのだ。
「私の好意ですよ」
「……好意？」
「えぇ、貴女も御存知でしょう？ アッシュボーンの秘宝の話は」
「……」
「貴女の亡き兄、前のロード・エルメロイことケイネス・エルメロイ・アーチボルト氏によって失われたエルメロイの源流刻印。修復師として噂されていたゲリュオン・アッシュボーン氏の秘宝が手に入れば元に戻る可能性もある」
彼女の言う通り、そして先日もライネスちゃんと話した通り、源流刻印はできればライネスちゃんの代で戻してあげたい。
兄達を護れなかった私ができる、唯一の贖罪。
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作者名：翔べないペンギン | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/
作成日時：2023年3月22日 1時
