ヨン話 ページ6
ライネスちゃんが兄上と慕っている人物は十年前の第四次聖杯戦争で生き残ったライダー陣営のマスター、ウェイバー・ベルベットさん。
私と同じ人であり、違う人である。
彼は私とは違ってあの戦争で何かを得たらしい。
三年後にライネスちゃんと一緒に会った時、一目見てそう感じた。
ひどく羨ましいと思ってしまった。
彼は何かを得て、私は大切な人達を失っている。
いったいその差はどこから生まれてしまったのだろうか。
「……授業や執務はどうされるのですか？」
「授業は前任者であるにシャルダンに頑張ってもらうさ。執務の方は面倒だが私とAが協力してこなすしかないだろう？」
そうライネスちゃんが言ったタイミングでノックが四回聞こえる。
失礼します、という無機質な声に少しだけ顔をしかめてしまった。
「あははは！ 本当にAはトリムマウが苦手なようだね。礼装自体は君の亡き兄君と同じだというのに、何がどう嫌なのかな？ 改善できるところは努力してみるから言ってみたまえ」
「……。いえ、礼装には問題ありません。ただ……」
「ただ？」
私が言い淀む間に月霊髄液はライネスちゃんの紅茶と、あろうことか私の分の紅茶も交換してくれる。
その様にも少しだけ顔をしかめてしまった。
「……あまりにも人間味が強すぎて、扱い方が未だに把握できていないだけです」
「へぇ……」
本当は兄を思い出して自身の無力さに悲しくなってしまうからなのだけど。
まるで私の心情などわかっているかのように、意味ありげに笑ったライネスちゃんはカップへと手を伸ばす。
湯気が立ち込めるそれは香り立つ紅茶本来の味を落としておらず、ライネスちゃん小さく笑みを浮かべてから一口。
「うん、まぁまぁだね」
そうこぼしてお茶請けの、彼女御用達のショコラのお菓子の一つに手を伸ばして食べていた。
頬を緩ませて普段では見せないようなかわいらしい表情に、こういうところは普通の女の子だなと思いながらも私も月霊髄液が淹れてくれた紅茶を飲む。
ひどく美味しい。
それでも心が晴れないのはきっと私の自身の問題と罪の意識のせい。
ライネスちゃんが伸ばしていたショコラではなく、別のお菓子に手を伸ばしてそれを食べた。
甘く、でも、癖のない味だった。
「なんだいA、私に気遣わずにショコラも食べればいいのに」
「それはライネスちゃんの好きなショコラなのですから。ライネスちゃんこそ私のことは気にせずに食べてください」
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作者名：翔べないペンギン | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/
作成日時：2023年3月22日 1時
