サン話 ページ5
にこりと笑うライネスちゃんからの目から逃れたくて、目線をまた、でも今度は手元まで下げてしまう。
上品な木目のローテーブルの上には私のティーカップも置いてある。
その色付いた水面には情けない表情をした私が映り込んでいた。
エルメロイの源流刻印は、私があの男からの銃弾を防げなかったためにほとんど損壊している。
いくら調律師にお願いしたところでもライネスちゃんの代で完全に修復することなど到底叶わない。
それほどまでにあの男の魔術礼装は酷かったうえ、私も兄もソラウさんも、相性が非常に悪かった。
「別に君を責めている訳じゃないんだよA。ただ、使えるものはどんなものでも使うべきだろう？」
「そう、ですね」
「まぁでも、流石に下調べ無しでのこのこ行かせて死なれては私が困るし、多少調査はするさ」
そう言うライネスちゃんの口調に少し違和感を覚える。
今の言葉だとまるでライネスちゃん自身は行かないような口振り。
「……ライネスちゃんは行かないのですか？」
「ん？ あぁ、別に私が行っても良いのだが、生憎私も忙しいからね。それに、こういうものには専門がいるだろう？」
顔を上げて見れば、にっこりと笑うライネスちゃん。
誰だろうと知り合いの人達を頭に思い浮かべては首を傾げてしまう。
専門と言えるような人はいただろうか。
一人思い当たる人物がいるけど、流石に役職と仕事があるため難しいはず。
「いいや、今君が思い浮かべた人物であっているよ、A」
私が脳裏で描いていた人物がわたかったのようなライネスちゃんの口振りに目を瞬いて見つめ返せば、ライネスちゃんは紅茶を一口飲んだらしい。
少しだけ形の良い眉をひそめると、後ろに佇む月霊髄液に向かって再度入れ直してほしいことを告げていた。
「Aはどうする？ 話している間に冷めてしまったようだ」
「……いいえ。私はこのままいただきます」
「そうかい。じゃあトリムマウ、私の分だけよろしく頼むよ」
「かしこまりました、お嬢様」
視界の端で月霊髄液が出ていく。
一度こちらにおじきをしたらしく、そのまま部屋の外へ出ていった。
その姿を尻目に入れつつ、徐にテーブルの上にあるお茶受けのお菓子を手にとると摘まみ口の中に入れて咀嚼しているライネスちゃんに尋ねた。
「彼に、お頼みするのですか？」
もぐもぐと口を動かし、飲み込んだライネスちゃんは頷く。
「あぁ、そうだとも。我が親愛なる兄上に私の代わりに行ってもらう」
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作者名：翔べないペンギン | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/
作成日時：2023年3月22日 1時
