橄欖の側にて咲く青薔薇の秘めた贖い (ページ26)

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ニジュウサン話ページ26

ライネスちゃんはそう言うけど、実際問題、兄とソラウさんの二人さえ生きていれば当時幼かった彼女に白羽の矢が立つことは一切なかった。

あの二人ではなく、私が消えればよかったというのに。

どういう訳か未熟な私だけが無惨にも無様にも生き恥を晒して生き残ってしまっているのだから。

「やれやれ……。君の性格は随分と歪んでしまったね。まだ私が物心ついた頃の君は純粋無垢で、人間性善説を信じる子羊のようだったというのに」
「……あの頃の私は、無知でしたから」
「だろうね。私も幼いながら君を酷くからかって遊んでいた覚えがあるもの」

からかわれていたのか。

遠い記憶を思い起こせば、幼い頃のライネスちゃんにあれこれと無理難題を言われて叶えようと努力していた覚えがある、気がする。

同時に兄とソラウさんのことを思い出して悲しくなった。

「感情が顔に出てくることに関しては昔とはさほど変わらないね、A」
「……」
「まぁいいさ。とりあえずトリムマウ、お茶のお代わりと外出の準備を頼む」
「畏まりました、お嬢様」

水銀の魔術礼装が部屋の外へと行く。

その姿を見ながらも、ライネスちゃんの言葉に首を傾げてしまう。

「外出の準備？これからどこかに行くのですか、ライネスちゃん」
「あぁ、これからグレイを迎えに行くんだ」
「……」
「もちろん、同行してくれるのだろう、A？」
「……その足で、イゼルマの披露会に向かうというのなら」
「やれやれ、こういうところは鈍感じゃないのはいったい誰に似たというんだい、A」

呆れたように言うライネスちゃんの言葉に考えた。

誰に似たと言われてもわからない。

父でも母でもなく、兄弟姉妹達でもない。

もちろん、兄でもない。

「……」
「はいはい、私が悪かったからそんな落ち込まないでくれ、A」
「……はい」
「ほら？君の好きな薔薇の形のショコラでも食べて元気を出しておくれ。君が落ち込んでいると私でも僅かながら罪悪感を感じてしまうのだから」
「……はい」

勧められるがまま薔薇の形のショコラを手に取り、口に含む。

途端に甘酸っぱいラズベリーが舌の上に現れた。

咀嚼すれば濃厚なそれは本の少しだけ気分を高揚させてくれる。

「じゃあAも準備をしてくれ。大方の用意はトリムがやってくれるが、君も淑女ならば必要なものの一つや二つぐらいあるだろう？三十分後にここに集合してくれ」
「わかりました」

頷き、立ち上がって自室へ。