ジュウキュウ話 ページ21
「大切な人と大切なものを同時に無くした気持ちはよくわかります」
私も経験がありますから。
「……ごめん、なさい」
「謝る必要はありませんよ、ロザリンドちゃん」
目を伏せるロザリンドちゃんの肩を軽く二回叩き、励ます。
「貴女が私のことを姉と呼びたいのでしたら、呼んでも構いません」
「……Aお姉様」
「はい」
「また、会っていただけますか？」
「はい。貴女が望むなら」
そう言うとロザリンドちゃんは顔を上げてくれた。
先ほどのほの暗い影は潜めているけど、きっとまた出てくるだろう。
私もそうだから。
結局、私はロザリンドちゃんを突き放すことはできず、彼女の心の拠り所になってしまった。
不都合はあるけど、結局はなるようにしならない。
静観していた彼が頃合いを見計らってロザリンドちゃんを促し、ロザリンドちゃんは迎えの者と一緒に馬車で帰っていった。
残ったのは私と彼だけ。
結界を解除して、帰路に着こうとすれば待ったがかかった。
「送ろう、A」
「……いえ、一人で帰られます」
「流石に遅い。私といるのが嫌ならせめてタクシーを呼ぶから、それで帰ってくれ」
「……わかり、ました」
元々一人で帰るつもりだったのだけど彼にこう言われてしまってはお言葉に甘えるしかない。
通りのため、手を上げれば直ぐにくるタクシーに先に奥へと乗り込み、行き先を運転手に言っただけで自身は乗らない彼。
そのままドアを閉めようとする運転手に待ってもらい、彼の顔が見れるように体をずらしてを見上げた。
「乗らないのですか」
「……いいのか」
「別に貴方といるのが嫌な訳ではありません」
「そう、か……」
困ったような、でも少しだけ安心したような表情の彼が体勢を戻した私の隣に座り込み、運転手に出すように言っていた。
今度こそドアは閉まり、発進する。
ぼんやりとロンドンの街並みを眺めていればぽつりと隣の彼が尋ねてきた。
「ハイネ氏の件は、なにか知っていたのか」
「いいえ、初耳でした」
もしかしたらライネスちゃんが面白半分で了承していた可能性はあったかもしれないけど、私まで情報が下りてきていない。
戻ったら尋ねないと。
そう考えながらも、先ほどまでのことを振り返り、ふと彼に尋ねないといけないことがあったことを思い出す。
「ロード」
「なんだ」
「なぜロザリンドちゃんは、紅茶の時にミルクたっぷりと私が言ったら表情を崩したのでしょう」
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作者名：翔べないペンギン | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/
作成日時：2023年3月22日 1時
