ジュウイチ話 ページ13
右手に粗品を持たされて私は病室のドアの前に立っている。
書かれている名札は無明記。
でもそこにいる、ということは理由も訳も何もかも不明だったけどどういう訳かライネスちゃんに教えられた。
そうして何故か見舞いに行ってこいと背を押されて、ここまで連れてこられてあとは放置されてしまった。
「……」
ノックをしようと左手を上げて、思いとどまる。
私が見舞う必要性もなく。
おそらくこの前のアッシュボーンの相続の件で怪我を負ってしまったであろう、彼も私がきても気まずそうな顔をするだけ。
ならばお互いのためにも私は帰るべきだろう、
ライネスちゃんには謝ればいい。
そう思って
「え、A、さん？」
「は？」
「……こんにちは」
開いたドアの先にいたのはグレイと名乗る少女と、少女越しにベッドに座ってこちらを見て目を剥いている彼がいた。
こうなってしまっては帰るのは失礼だから、お見舞いの品だけお渡しして帰ろう。
「どうして、ここが……」
「ライネスちゃんから聞きました。ロード・エルメロイが入院しているのでお見舞いをしてあげてとお願いされたので」
そう言って手に持つお見舞いの粗品、フルーツの盛り合わせを差し出せばお礼を言いながらおずおずと受け取ってくれる。
渡すものも間接的とはいえ弟子の少女に渡せたのだからライネスちゃんにはちゃんと言える。
なので私には用がないのでそれではと踵を返せば、待てと引き留める声に足を止めざるおえない。
「何か、御用でしょうかロード・エルメロイ」
「二世を付けてくれ。少し話せないだろうか、A」
振り返らずに問うと、話したいという。
私には話すことはない。
一度彼が怪我人であることを考慮してと断りをいれたけど、私に対しての頼みもあるというのだから渋々受けるしかない。
「わかり、ました」
返しかけた足を戻し、病室内へ踏み込む。
どうやら四人部屋らしいけど今は彼一人だけらしい。
病院服を着ている彼はその長い髪を後ろで一つにまとめているため、いつもと少しばかり印象が違う。
「掛けてくれ」
「はい」
備え付けのパイプ椅子に座る。
少女がキャビネットに私が渡したフルーツの盛り合わせを置くと私と彼に一礼をしてから病室を出ていくのを視界の端で見送り、それから彼を見据えた。
「それで、頼み事とはどのようなことでしょうかロード・エルメロイ」
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作者名：翔べないペンギン | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/
作成日時：2023年3月22日 1時
