ジュウ話 ページ12
考えて悩んでいれば私の名前を呼ぶ声が右側からする。
見てみるとエルメロイ教室の生徒が一人、こちらに走っていた。
「Aさん」
「あなた……」
「スヴィンです。スヴィン・グラシュエートです。Aさん」
「……そうでしたね」
側にきた彼の顔を見て、そうだったと頷く。
基本的にライネスちゃんが出席する時だけ私も一緒に授業を受けているため、エルメロイ教室の生徒の名前はうっすらとしか覚えていない。
現に彼も顔は見たことがあっても名前が出てこなかった。
「それで、私に何か御用ですか？」
側に立つ彼を見上げ尋ねた。
スヴィンくんは私の手元の耳の形をしたものを注視しているようで、おそらくこれを目当てであることはわかったけどどういう目的なのかが不明。
「その手に持ってるもの、渡してもらってもいいでしょうか」
「……これはあなたの物なのですか？」
「あー、えっと、僕のっていうか、僕等のっていうか、むしろあいつが……」
「？ よくわかりませんが御返却しますね」
立ち上がりながら手に持つ耳の形をしたシリコンをスヴィンくんへと渡す。
ほっと息を吐くスヴィンくん。
「大事なものなら落とさないことですよ。あと」
そう区切ってから、ちらりとドアを見てから耳を見て、もう一度スヴィンくんを見る。
「あまり盗み聞きなんてものはすべきではありません。程度が知れてしまいますよ」
「……はい」
ひきつったような顔をするスヴィンくんに、それではと一言残してから彼の執務室の前から去っていく。
耳の形をしているということは会話を聞くということ。
それぐらいなら私でもわかる。
だけど、何故わざわざ私と彼との会話を盗み聞きするようなことをしていたのかはわからない。
ついでに言えば中で私とスヴィンくんの会話を盗み聞きをしていた彼もわからない。
実りがある話しでもなんでもないのに。
半螺旋になっているような階段を下りていれば反対に二階へ上がろうとしているフードの少女がいた。
思わず立ち止まってしまいそうになる足をどうにかする。
「……」
「……」
軽く頭を下げてくる彼女に私も返す。
一階に足を着いた時に一度だけ二階を仰ぎ見れば彼女も私を見ていたらしい。
角度的にフードの中のあの顔が見えてしまい、悲しくなった。
彼女は慌てたようにフードを目深く被り直し、もう一度私に向かって頭を下げると教室のある方へと消えて行く。
私も、逃げるように
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作者名：翔べないペンギン | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/
作成日時：2023年3月22日 1時
