キュウ話 ページ11
身体ごと向き直り、先日のことを彼に説明する。
法政科の人からゲリュオン・アッシュボーン氏の遺産相続の付き添いとして一緒に訪問しないかと提案があったこと。
断ると代金と一緒に"レハエル"という文字が記載されたメモ用紙を置いて去っていったこと。
そのことを簡潔に伝えると、彼は眉間に更に皺を寄せて黙ってしまった。
「以上ですが、他に何かお尋ねしたいことはありますか？」
「十分な回答だった」
そう言う割には何か言いたそうな表情をしているけど、気付かなかった振りをして彼に一礼。
「A」
顔を上げると同時に名前を呼ばれた。
「……」
「？ いかがなされましたか、ロード・エルメロイ」
「いや……呼び止めてすまない。何か質問があればまたくるといい。説明しよう。それと、二世を付けてくれ」
「……」
何か言いたげな表情なのは変わらないけど彼が何も言わないのなら私は何も尋ねない。
再度一礼して、それから背を向けて準備室を出た。
ドアを閉めるまで何か言いたげな彼の視線を受けつつも気付かない振りをして、パタンとドアを元の位置に戻す。
「……」
そうしてやっと小さく息を吐くことができた。
彼が何を言いたいのかは少しだけしかわからないけど、それを言ってあげる程今の私は優しくも何もない。
彼のせいではない。
それは理解している。
けど、どうしてももしもを考えてしまう。
彼がもし、征服王イスカンダルの聖遺物を持ち出さなければ、と──。
全く意味のない想像でもある。
それをわかっているけど、もしもを思ってしまう私は現実を見られない。
どうしても今を受け入れられないのだから。
「？」
自然と視線が下がってしまったために足元を見ていたのだけど、何故か耳の形をした何かがドアの前に落ちてあった。
「……耳？」
拾って手に取ってみればそれは人の耳の形をした何かだった。
感触は人の皮膚とは違ってシリコン、と呼ばれるような人工的な材質だと思う。
確証はない。
ただ、以前現代魔術科の授業で彼がそのようなものが科学の力でできるという講義をしていたことと、見本品としてシリコン材質のものを各自渡されてレポートを書かされたため覚えていただけ。
でも耳の形をしたシリコンがどうしてこの部屋の前に落ちている理由は皆目検討も付かない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 19人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：翔べないペンギン | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/
作成日時：2023年3月22日 1時
