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「さくら!」
ようやく意識が覚醒したらしく、
さくらの存在を確認しようとしたのか飛び起きた。
さくらは、小狼の腕にしっかり抱きかかえられていた。
目を覚ましていないさくらに、心配になった小狼は
桜の体を両腕で大切そうに抱きしめた。
「一応、拭いたんだけど、雨でぬれてたから」
ヘラっとした表情で魔導士は、小狼に話を続けていた。
「モコナもふいたー!」
「寝ながらでも、その子のこと、絶対話さなかったんだよ」
横ではモコナが、ほめてーと踊っていた。
「君ー、えっと……」
魔導士が小狼の名前を呼ぼうとしてたが、名前を知らなかったみたいで、どう聞いていいか困ったそぶりを見せた。
「小狼です」
魔導士の考えを悟った小狼は、自分から名乗る。
「こっちは、名前長いんだー、ファイでいいよー」
自分を指さしてファイは言った。
モコナは、ぴょんとファイの手から降りて、黒ずくめの男の膝に向かう。
「で、そっちの黒いのは、なんて呼ぼうかー」
「黒いのじゃねぇ!黒鋼だっ!」
黒いのと評されて、頭に血が上った黒鋼はファイに怒鳴っていた。
「くろがねねー」
ほいほいとファイは、黒鋼の怒りを気にしもせず「くろちゃんとかー?くろりんとかー?」
と黒鋼の渾名を上げていた。
その隙に、ちゃっかりとモコナは、黒鋼の膝の上に乗っかっている。
「うわっ、おい、てめっ!
何膝のってんだ!」
「でー、君の名前は……」顔をフィリアの方に向け、名前を聞いてきた。
「フィリアです」
無表情で返すのもどうかと思い、フィリアは少し口元を上げて、返した。
さくらの容体が、心配なのか小狼は不安げにさくらのことを見つめていた。
すると、ファイが小狼の体に手を伸ばした。
「うわっ!!」
ごそごそとマントの裏や服を探る素振りをファイはした。
それを見て、黒鋼は訝し気に「なに、してんだてめぇ」と言っていた。
「これ、記憶のカケラだねぇ、その子の」
「え!?」
戻したファイの手には、うっすらとピンクがかった文様が書かれた羽根が握られていた。
「君にひっかかってたんだよ、ひとつだけ」
「あの時飛び散った羽根だ」
フウっと浮かんだ羽根は、さくらの胸の上で水面に溶けていくように吸い込まれた。
「これが、さくらの記憶のカケラ」
羽根を取り込んださくらの頬には赤みがさした。
「体が……暖かくなった」
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作者名:浅葱由希 | 作成日時:2016年3月20日 12時