57 ページ7
.
久しぶりにこんなに混んでいるところに来た。慣れた様子で進んでいく彼に必死に付いていく。本当は自分の本心じゃなくて佳奈子に言われたことだったけど、手を繋いでいて本当に良かった。これなら一瞬ではぐれる自信がある。優しくリードしてくれている彼が頼もしい。
夏祭りなど記憶の中では来たことがないので慣れずにきょろきょろしていると、前から来た人に気付かず肩がぶつかってしまった。
男「気をつけろ!危ないだろ?!」
「あっ…ごめんなさい」
とりあえず謝っておく。相手はちょっと酔っていたのか、口調が荒々しく怖かった。すると彼が腕を引いて私の肩を抱く。
有「ほら、危ないから…もっと近くにいてよ」
「えっ…うん」
突然の事で驚く。いつもの彼とは違うようで…なんかかっこいいと思ってしまった。抱き寄せられた彼からはふわっと爽やかな香水が香った。
有「なんか食べたいものとかあったら言ってね、買うから」
「え、いいよ、大丈夫。自分で買うし」
有「いやいや!俺が誘ったんだからそれくらいさせてよ、ね?」
「うーん…じゃあ、食べたいものがあるんだけど…」
有「ん?何?」
彼に聞かれ私が指さしたのはりんご飴。お祭りくらいでしか見かけないから食べたことがなくて、1度食べて見たかったんだ。
有「りんご飴?いいよ、じゃあ買おうか」
そう言ってりんご飴の屋台へ向かう。
有「お姉さん、りんご飴2つください」
店員「はい、200円ね」
有「うん、ありがとう」
彼はりんご飴を受け取り、1本私にくれた。そして人がちょっと少ない路地へ入る。
「有岡くんもりんご飴食べたかったの?」
有「うん、Aちゃんが食べるって言ったら食べたくなっちゃって笑」
そう言ってニコッと笑う。そして思い出したかのように携帯を取り出した。
有「1枚撮ってもいい?」
「いいよ」
相変わらず写真は嫌いだけど、せっかく浴衣だし記念だから、と言い聞かせて写真に写る。
有「ありがとう、後で送るね」
「うん」
浴衣姿でりんご飴を持つ2人は何だか楽しそうな顔をしていた。私もやっぱりちょっと浮かれてるみたい。
42人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あんず | 作成日時:2018年6月3日 17時