8話 ページ10
何で私はあんなに緊張していたんだろう。
昼休み。朝の先輩を思い出してそう自問する。
挨拶するだけで緊張していた自分が恥ずかしくなるくらい、先輩は私にいつも通りの対応をした。
別に先輩が私を見て動揺するなんてこれっぽっちも思っちゃいなかった。むしろ彼は何事もなかったように装うのだろうと大体予想していた。
それでも驚くくらいに先輩は本当に何事もない様に装っていて、一瞬、もしかしてあれは夢で本当に何事もなかったんじゃないか?と思うほど。
さすが奇跡の二面性王子、茅ヶ崎至。オンオフの切り替えが凄く上手いし素晴らしい。
あの眉ひとつ動かさない技は私も見習いたいな、なんて素直に感心しながらコンビニのおにぎりを頬張った。
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その後も茅ヶ崎先輩は一つもボロを出す事はなかった。
考えてみれば、今まで重度のゲームオタである事が今の所私以外の誰にもバレていない事からして隠し事は得意そうだから、当然っちゃ当然だけど。
私も最初は、廊下ですれ違う時や仕事の話をする時に早まっていた心臓の鼓動も、慣れてしまえばもう特別胸が高鳴る事はなくなった。
そうやってお互い何事もなかった様に過ごすうちに、2週間が経った。
多忙と疲労であの夜の事なんて忘れかけていた矢先。
「あ、速水さん。ちょっといい?」
社員食堂からオフィスに戻る道で、先輩に呼び止められた。
『どうかされました?』
一緒にいた友達に先に行っておく様言って、先輩の方に向き直る。
「速水さんに電話来てたんだけど、不在だったから俺が出ておいたよ。」
『あ、すみません。ありがとうございます!』
「これ、先方からの電話の内容。ざっとメモしておいたから後で確認しておいてね。」
先輩はそう言って微笑むと、メモの切れ端を私に渡した。
『ありがとうございます。後で私からも先方にかけ直しておきますね。』
「うん。よろしくね。」
先輩が立ち去った後、内容を確認しようと二つに折りたたまれたメモを開く。
『え?』
そこには、先方からの電話の内容なんてどこにも書いていなかった。
‘‘金曜日 18時 駐車場”
代わりにそんなメッセージが走り書きで書かれていた。
久しぶりに心臓の鼓動が早まって行く感覚を感じながら、そのメモを四つ折りにしてポケットに入れた。
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雪乃(プロフ) - 消しゴムさん» コメントありがとうございます!頑張ります! (2017年7月31日 3時) (レス) id: 66c51cba16 (このIDを非表示/違反報告)
消しゴム - 更新楽しみにしてます(*^◯^*) (2017年7月30日 8時) (レス) id: 4a07a21d32 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪乃 | 作成日時:2017年7月25日 8時