7話 ページ9
ジリリリ…と、狭い寝室にスマホのアラームが鳴り響く。
『…うるっさ…。』
寝ぼけ目を擦りながらスマホを手当たり次第探して、アラームを止めた。
『遂に来てしまった…。』
瞼は重く開くのも憂鬱で、半目でスマホの画面を覗き込む。大きく「月曜日」と書かれたディスプレイを見て、そんな言葉を漏らした。
ああ、憂鬱だ。ただでさえ1週間の始まりで仕事があるのが辛いのに。
枕に顔を埋めて、深いため息を吐いた。ため息を吐けば幸せが逃げるとよく言うが、私は土曜日から今までどのくらいの幸せが逃げて行ってしまったんだろう、なんてぼんやり考えながら布団を出た。
**
「おはよー!A!」
オフィスに入ると後ろから、この前LIMEをして来た同期の友人が声をかけてきた。
『おはよう。LIME見る限り死にそうだったから元気そうでよかったよ。』
「まぁ、部長が野球拳やろうなんて提案してきたのなんてもうネタでしょ。こんな事言いたくないけど、あの時A体調崩しててよかったかも。地獄だったし。」
『うん。ラッキーだったよ。』
そういえば体調不良って言って飲み会断ったんだっけな、と相槌を打ちながら思い出す。
普段真面目なふりをしていると、こういう時に嘘をついているんじゃないか、だとか面倒な詮索を受けないから楽だ。誠実に相手に接すれば、相手も誠実に私に接してくれる。
それにしても、女性社員に野球拳持ちかけてくる部長ってなんだ。そろそろ誰か人事部にセクハラで告発してそのままクビにならないかな。あのオヤジ。
そんなことを思いながら友人とエレベーターに乗ろうとした時、隣の友人が黄色い声を上げた。
「やだ嘘、朝から超ラッキー!茅ヶ崎さんだ!」
茅ヶ崎。その名前を聞いて思わず肩が揺れる。
友人が向ける視線の先をつられて私も見ると、複数の女性社員に囲まれた茅ヶ崎先輩が微笑んでいた。
「うわ、近付いてくる、どうしよう。」
『そりゃ向かう部署は同じなんだから近付いてくるでしょ。』
冷静を装って友人にそう返すけど、鼓動は早く手に汗が滲む。ああ、今私普通の顔出来てるかな。変な顔してないよね。
「おはようございますっ!」
先輩が私達の前を通って行く時、隣にいた友人がいつにも増して元気良くお辞儀をした。
『お、おはようございます…。』
少しどもった自分の挨拶を誰も疑問に思わないだろうか。そんな心配は杞憂でしかなく。
「おはよう。」
先輩は一瞬私達に目をやって、甘い微笑みを浮かべた。
584人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雪乃(プロフ) - 消しゴムさん» コメントありがとうございます!頑張ります! (2017年7月31日 3時) (レス) id: 66c51cba16 (このIDを非表示/違反報告)
消しゴム - 更新楽しみにしてます(*^◯^*) (2017年7月30日 8時) (レス) id: 4a07a21d32 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:雪乃 | 作成日時:2017年7月25日 8時