32話 ページ37
毎日同じ時間に設定してあるアラームが、今日も私を起こす為に鳴り出した。
その音に若干の忌々しさを覚えながらアラームを止めた。
昨日は結局どうなったんだっけ、と寝ぼけ目を擦りながら周りを見渡すと、自分がベッドで寝ていた事に気が付いた。
結局あのまま寝てしまった私を、先輩はベッドまで運んでくれた様だ。
いつのまにか昨日のスーツからスエットに着替えている事に些かの羞恥心を噛み締めて、やがて先輩がもう既にいなくなっている事にようやく気付いた。
『お礼…言えてないな…。』
朝日に照らされた寝室で1人ポツリと呟いた。
会社で会った時、しっかりお礼を言おう。そして昨日先輩に甘えた分、今日は頑張ろう。昨日誓った事を成し遂げる為に努力する事が、きっと先輩へのお礼になるだろうから。
昨日の残業の名残で凝り固まった肩を回し、そんな事を考えながらおろしたてのスーツに腕を通した。
**
『おはようございま……えっ、ちょっと何…!』
「A!来て!一瞬だけ!ね!?」
いつもより一本遅い電車に乗って出勤し、いつものように挨拶をして自分のデスクに向かおうとした瞬間に、同期の友人に突然オフィスから半ば強引に連れ出された。
女子化粧室に入って真っ先にメイク直しの椅子に座ると、「ほら座って!」と私にも着席を促した。
長話を決め込む気なのだろう。まだコートも脱いでないのに、とため息をつきながら椅子に座ると、早速と言わんばかりに彼女は身を乗り出した。
「昨日Aさ、課長に仕事押し付けられてたでしょ?」
『ああうん。あ、昨日ありがとね。手伝ってくれて。』
「いやうんそれはいいんだけど、それよりA!アンタ、茅ヶ崎さんと仲良かったの?」
心臓が大きく揺れる感覚がした。
『…いや?全然。会ったら挨拶するくらい。』
僅かばかりの動揺を全く悟られない様に平然とそんな嘘をつけば、友人は「じゃあやっぱり茅ヶ崎さんが良かれと思って…!」とうっとりとした表情でそう言うと、両手で少し赤らんだ頬を覆った。
『…あの、どういうこと?』
「今日の朝一にね、茅ヶ崎さんが課長がAに仕事押し付けた事と、昨日手伝わないで帰った事を部長に進言したの!」
友人は興奮した声音で課長が今まさに部長からの説教を受けていることを私に伝えると、「茅ヶ崎さん本当にカッコいい…」とまた頰を赤らめた。
そんな友人をよそに、また一つ借りができてしまった、と彼女に気付かれない様に小さなため息をついた。
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雪乃(プロフ) - 消しゴムさん» コメントありがとうございます!頑張ります! (2017年7月31日 3時) (レス) id: 66c51cba16 (このIDを非表示/違反報告)
消しゴム - 更新楽しみにしてます(*^◯^*) (2017年7月30日 8時) (レス) id: 4a07a21d32 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪乃 | 作成日時:2017年7月25日 8時