29話 ページ34
『あの、クソ上司……。』
資料が出来上がったと同時にため息と共にそんな恨み節が出て来た頃には、時刻は午後10時を回っていた。
結局あの後、課長は定時より少し遅めに帰る部長の後を追う様にそそくさと帰ってしまった。
その後は事情を知っている同僚の何人かが仕事を手伝ってくれたのだが、流石に夜遅くまで残業に付き合わせる訳にはいかない、と帰ってもらった。
「最後まで手伝えなくてごめん…」と申し訳なさそうに言いながら帰っていった彼らがいなければ、今頃まだ資料が出来上がる目処さえ立っていなかったかもしれない。心内で大いに感謝しながら、デスクの傍にあるスマホを手に取る。
今から帰るのは何時頃になるかな、とネットで時刻表を開いた。
『うわ…運転見合わせ…。マジか…。』
謝罪文と共に表示されたそんな文字に軽く絶望する。再開の目処は立っていないらしく、再開を待っていたら日付が変わってしまうかもしれない。
日付も変わり夜も更けて行く中、遅延の影響で満員電車にもみくちゃにされながら帰る自分。ただでさえ倒れそうなほど疲れているのに、そんな状況想像するだけで死にそうになる。
『……タクシーで帰るか。』
金はかかるけど、なんて独り言が一人きりのオフィスに小さく響いた。
**
会社の入り口前に夜遅くまで立っている警備員さんの「お疲れ様です」なんて挨拶に「ありがとうございます」という言葉と微笑みで返す。いや、疲れすぎてうまく笑えていなかったかもしれない。
会社の前にタクシー乗り場はあることはあるのだが、流石にこんな時間までタクシーが待っていてくれる筈もなく、辺りには人一人いない静けさだけが残っていた。
まだまだ冷え込む夜の空気にかじかむ手を震わせながら、タクシーを呼ぼうとケータイを取り出そうとしたその時、タクシー乗り場の端から短くクラクションが鳴った。
クラクションの鳴る方を見て、目を見開いた。あれは、先輩の車だ。
ヒールな事も厭わず、思わず駆け足で車の方へ駆け寄った。
『茅ヶ崎さん…。なんで…?』
二回ノックするとすぐに開いた車窓から挨拶もよそにそう尋ねると、先輩は横目に私を見て少し笑った。
「俺、スマホとバッテリーさえあれば何時間でも待てるから。」
***
長らく更新を滞らせてしまい本当に申し訳ございません。誠に勝手なタイミングですが、更新を再開させていただきます。待っていただいた方、ありがとうございます。
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雪乃(プロフ) - 消しゴムさん» コメントありがとうございます!頑張ります! (2017年7月31日 3時) (レス) id: 66c51cba16 (このIDを非表示/違反報告)
消しゴム - 更新楽しみにしてます(*^◯^*) (2017年7月30日 8時) (レス) id: 4a07a21d32 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪乃 | 作成日時:2017年7月25日 8時