25話 ページ30
「いつから勘付いてたわけ？」
大きくゲームオーバーと映し出された画面を見てコントローラーを放り投げた至さんは少し不機嫌そうにそう聞いた。
「あー、1、2ヶ月くらい前？監督とか左京さんも薄々勘付いてましたよ。」
「マジかよ…。まぁ毎度毎度朝帰りだしバレてもしょうがないけど…2人はなんて？」
「監督は至さんのプライベートな事だから口は出さないってさ。左京さんは稽古に支障なきゃいいってよ。」
「は？大人な対応過ぎる。好感しかねえ。逆になんでお前見習わなかったんだよ。」
「突然キレんなって。」
至さんはソファに倒れ込み、外ではエリートサラリーマンをやっているとは到底思えない様な声で呻いた。
そんな至さんの隣に座り、ニッと口角を上げて彼に問いかける。
「で？いつ頃から付き合ってるんすか？」
そう聞くと、この男はだらりと力を抜いていた体を急に強張らせた。
まるで、聞かれたくないことでも聞かれたみたいに。
「…言わなきゃダメなの？」
「言わない理由もねえだろ。」
言い返す言葉を探しているのか、至さんはしばらく口を噤んだ。しばらくの間、秒針が時を刻む音が部屋にこだまする。
「付き合ってない。」
時計の針が支配する僅かばかりの静寂を破ったのは、至さんのそんな小さく呟いた一言だった。
「……は？」
予想外の言葉に思わず言葉を失い、ぽかんと口を開けたままでいると、至さんはソファから起き上がり口を開く。
「付き合ってはないけど、朝帰りの理由はお前の想像通りって事。…質問はこれで満足？はやくマルチもう一回やりたいんだけど。」
自ら放り投げたコントローラーを手に持って、画面を指差しこちらを見る至さんに少しばかりの動揺を隠さないまま、もう一つ質問をした。
「付き合おうとか、考えたことはねえの？」
俺がそう聞くと彼は一瞬だけ目を見開いて、そしてまた一瞬だけ、寂しそうに笑った。そして俺から視線を外し、少し下に俯いた。
「さあ、」
溜息のようなその言葉が、空気に溶け込んでいく。空気に溶け込んだ至さんの言葉は、俺を少しだけ切なさに酔わせる。
「少なくとも、相手は俺と付き合おうとか考えたこともないと思うけど。」
俯いてそう言った彼は、どんな顔をしていたのか。
一瞬だけ、そんな疑問に囚われた俺の頭は「今度こそもう満足？」という至さんの少し含んだ笑い声で、引き戻された。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 584人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雪乃(プロフ) - 消しゴムさん» コメントありがとうございます！頑張ります！ (2017年7月31日 3時) (
レス) id: 66c51cba16 (このIDを非表示/違反報告)
消しゴム - 更新楽しみにしてます(*^◯^*) (2017年7月30日 8時) (レス) id: 4a07a21d32 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪乃 | 作成日時：2017年7月25日 8時
