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『夢に沈む』 ページ8

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姉ちゃんのお菓子はやっぱ美味しいよなー




あらあら、雪兎(ゆきと)は相変わらずお姉ちゃんのお菓子が好きね



だって美味いもーん



あ、雪兎、それ父さんの……




暖かな陽射しの差し込むリビングで、お母さんとお父さん、弟の雪兎が私の作ったお菓子を囲んで笑いあってる。当たり前の光景。幸せな時間。





ほら、渚もこっちにいらっしゃい、ココア入れてあるよ




お母さんが優しく手招きしている。その奥で雪兎とお父さんが最後のお菓子を大人気なく取り合っている。暖かくて優しいその場所に行きたくて一歩足を踏み出した。



『まって、今行くから』






【_ちゃ_】




家族の声でも私の声でもない声がする。雑音混じりの声。歩みを止めて振り返っても、そこにあるのはキッチンだけ。





どうしたの渚?早くいらっしゃい





お母さんが優しく手招きする。もう一度踏み出そうとするが先ほどよりもより酷く雑音混じりの声が響く。




【_ちゃん】




【お姉ちゃん】




「っつ!!」




ハッキリと呼ばれた直後、今までいた穏やかな世界は崩壊した。血のように赤い夕暮れの陽射しが差し込むリビング、割れた窓、歪なバケモノ達




襲い掛かろうと此方へ向かってくるバケモノから距離と取ろうと後ずさった瞬間、ドプンという粘着質の強い液体に飲み込まれる感覚が包んだ。



一瞬にして恐ろしい記憶の場面から一変して、ブクブクと深い深い闇の中に堕ちて行く。
泡のようなナニかが自分の口から上へと昇っていく。






「ゴボッ……」




口から声ではない泡が溢れる。逆らう事も出来ず重力に従って深く深く沈んでいく。何も聞こえず何も見えない。痛みも温度も感じない。






「……」



手を伸ばしてみた。本当に伸ばしているかすらわからない。まるで自分だけ世界から切り離されたようだ。





(嗚呼、夢か)




これはきっと、今まで見ていた夢の骸。
楽しい事も悲しいことも全部が無くなって消えた骸。取り残されたのは夢という名だけの悪夢。




伸ばした手がだらんと落ちる。
目を閉じてそのまま全ての息を吐き出す。
ボコボコと勢いをつけて吐き出され、酸素を失った体がボンヤリと意識を混濁させていく。




_だれか




たすけて





誰にも届かないであろう声を落とす。






【助けるからお姉ちゃん!!】






ザバンと遠くから水飛沫の音がした。

『現に昇る』→←『穏やかに緩やかに』



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作者名:夜月 | 作成日時:2017年9月11日 22時

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