9.姫抱き ページ9
処置が終わって、そろそろ教室に戻ろうかという時。
「はい、捕まって。」
「………ん?」
「教室帰るんでしょ。また抱えて行くから、ほら手出して。」
「えぇ………」
あの爆弾をもう一度浴びせられそうになった。
さっきの数秒だけでも心臓が痛すぎて半ば呆けていたと言うのに、それが教室までとか言われたら私死ぬんじゃないだろうか。
「あ、歩けるよ?」
「だけど今はスリッパないでしょ。また踏むと危ないし、処置したばっかりなんだから安静にしなきゃダメだよ。」
「そう何度も踏まないし……」
けれど私がこうやって抵抗した時に、私の意見が罷り通ったことなんて一度もない。
特に、どちらにも正義が無い場合の幸郎のゴリ押しに私は弱いのだ。
けれど今回は頷けない。私はここで死ぬ訳にはいかないのだ。
「………俺とくっつくのはいや?」
「う"っ」
そう言われて『嫌』なんて嘘でも言えない。だって嘘じゃないから。
そりゃあ確かに夏だし暑いし、くっついたら互いに汗とか熱とかで長くそのままでいられたものでは無いけれど、何を隠そう私たちは付き合いたて。そういうスキンシップは大好きなのだ。
「お、オネガイシマス………」
「はーい。じゃあ捕まっててね。」
私は負けた。
そして自分の欲深さを恥じる余韻もなく、幸郎は軽々と私の身体を持ち上げて横に抱くと、保健室を出て廊下をゆっくり歩き始めた。
暑さで少し滲んだ汗の匂いと、元々の柔軟剤の良い香りと、そして何より幸郎の温かい体温とがっしりとした腕と胸板にドキドキせざるを得ない。
季節は夏でくっついてたら暑いはずなのに、なんで温かいなんて思うんだろう。
そして寄りかかる胸板と肩にかけて察知している羽田から伝わる、幸郎の鼓動。
私の早すぎる鼓動が恥ずかしく思うくらいに落ち着いていて、その羞恥がさらに私の体温と鼓動を上げていく。
「………緊張してる?」
「き、緊張って言うか、恥ずかしい」
「俺はAの可愛い顔が近くで見れてとても満足。」
「ツグエ」
確信犯なのか無意識なのか。いや、確信犯に違いない。
あまりにどストレートすぎる言葉に、羞恥も相まってクラクラする。今度は熱中症になりそう。
私は真っ赤になった顔を両手で隠してしまう。
「こら、ちゃんと腕首に回してよ危ないから。」
「むり……」
「早く直さないと、ほっぺにキスするけど。」
「?!」
「あはは、顔真っ赤〜」
こんっのカフェオレ野郎め。
結局私は大人しく首に抱きつき、幸郎はこのままの体勢で授業中の廊下を闊歩したのだった。
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葵坂(プロフ) - みるくてぃーさん» もうねー!!私が書くと本来かっこいいキャラが女々しくなるんですよね!それが私の性癖なので!!劇場版はなんか伸びちゃいましたよね!!ちくしょう!!!!!!気長に私の小説でも読んで昼活してください! (6月28日 10時) (レス) id: ea5ee97200 (このIDを非表示/違反報告)
みるくてぃー - 初コメ失礼します。え、昼神君可愛っ!!!劇場版めためた楽しみなんだが。更新応援してます!(?) (6月1日 16時) (レス) @page44 id: 461adb2062 (このIDを非表示/違反報告)
葵坂(プロフ) - FLOWERさん» これはこれはこちらでもありがとうございます!こんな駄作で良ければいつでもご覧くださいませ!なんですかねぇ、作者芽生男書くとなんかたまに女々しくなっちゃうんですよね笑キャラ崩壊しない程度にもちろん作者の解釈の中で、これからも最新して参ります! (5月4日 20時) (レス) id: ea5ee97200 (このIDを非表示/違反報告)
FLOWER(プロフ) - 前作から応援しております、FLOWERです。最近勉強などで忙しい中これを読ませていただいてます。話は変わりますが、昼活のセンス良すぎませんか?昼神も可愛くて、甘酸っぺえさが増しましたね…これからも更新応援してます!互いに昼活しましょう笑笑 (5月4日 19時) (レス) @page38 id: 87ff2022c1 (このIDを非表示/違反報告)
葵坂(プロフ) - 眠いちゃんさん» ありがとうございます!!とても嬉しいです!どぞどぞ!いくらでも話して行ってくださいねー! (2023年4月30日 10時) (レス) @page31 id: ea5ee97200 (このIDを非表示/違反報告)
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