ココアより甘い【昼神幸郎】

５．浮かれポンチ ページ5

「あ、またAストラップ触ってる。」


「え？あ、ほんとだ。無意識だった。」


「浮かれてんなぁ、それつけて５日は経とうとしてるって言うのに。」


「ごめんごめん。」


「いや、なんも悪くないんだけどね。」





あの放課後デートから５日後。

あっという間に９月最初の金曜日となり、現在は外で美術のデッサンの授業中。


筆箱に付けたあのストラップは、今日も今日とて綺麗に輝いている。


それが私の目の端に移る度、手の届くところにある度に、私は人差し指でコロコロと転がしたり、撫でたりしてしまう。


初めてのお揃い。

瓶の底にあるお互いの名前と作った日付を眺めては、ついついうっとりとしてしまう。





「ウチの弟の話によると、昼神も同じことしてるってさ。カーーッ！！いいねぇ、アツアツだねぇ。」


「葵ちゃん静かにして。」





手に持った鉛筆を指の腹で器用に回しながらそう言うのは、クラスの中では１番仲の良い女友達の葵ちゃん。


葵ちゃんは陸上部でハードル専攻の運動系女子。

双子の弟が５組にいて、幸郎の様子をよく弟経由で伝えてくれるのだが、その度に茶化したり囃したりしてくる。まぁ、それ含めてもいい人なんだけど。



そんな彼女からふと聞いた幸郎のこと。


私と同じように触ってしまう彼を想像しただけで、嬉しさと照れが込み上げる。


葵ちゃんは授業中に何してくれてるんだろうか。
ただでさえ９月の日差しが強い中での外デッサンだと言うのに。まぁ、そこまで先生も鬼じゃないので日陰からのデッサンなんだけど。



私はいかんいかんと脳内のイマジナリー幸郎を振り払い、目の前の被写体に集中する。


今日の被写体は、外から見た校舎。

どの教室も陽射し避けのカーテンが閉められて、ここから中の様子は分からない。





「あ、見て見てA。昼神がいるよ。」


「え、どこどこ。」


「うっそぴょーん」


「…………」


「ちょ、ちょちょちょちょちょ待っ、痛い痛い！すみませんでした！！」





いい人なんだけど、巫山戯すぎるのもダメだと思う。


一気に上昇し、瞬く間に下がった私のテンションが無駄なエネルギーを使ってしまった。ただでさえ暑さで気力を失っているというのに。


私は散りかけた集中力を再度集結させて、じっと校舎を見つめる。





「(……幸郎は今移動教室で別棟にいるのに、ここから見えるわけないじゃん。)」





見えたら良かったな、なんて葵ちゃんには言わないけど、授業が終わって移動する時に、ばったり会えたりしないかなと、ちょっと願った。

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