ココアより甘い【昼神幸郎】

３４．ご褒美 ページ34

少し遠くから声を上げて私を引き止めたのは幸郎だった。


濃い茶髪に白のハチマキがよく似合っている。





「次の種目に出るの？」


「うん。あれ、そういや言ってなかったっけ。」


「そう。わかんないから教えて？」





幸郎は、一つ縛りで纏めている私の髪の纏め損ないを、手を伸ばして私の耳にかけながら尋ねる。


話す度に私の手か首から上似触れる癖がある。





「２００ｍ走とパン食い競走。」


「一つも被ってないね。俺は借り物競走とビーチフラッグ。」


「お、見てるわ頑張れ。」


「うん、ありがと。

借り物競走、彼女の〇〇とか、異性の〇〇とか出たらまっさきにAのとこ行くから、ちゃんと団席の定位置で座っててね。」


「………どうしよ、一応幸郎敵だからな。」


「A足速いけど、俺よりかは遅いから諦めなよ。」


「…………こんにゃろ」





事実だけども！！！


相変わらず誰相手にもズバズバ言うなぁこいつ。





「あとさ、ちょっとお願いがあるんだけど。」


「ん？」





急に幸郎が耳元で囁いた。


最近増えた、幸郎の「お願い」


これは、幸郎が私に甘えたい時とかに使う言葉。




………今度はどんな凄いこと頼まれるんだろう





「………俺、どっちも頑張って首位とるからさ、もし取れたら……」


「…………取れたら？」





少しの沈黙が流れる。


そして幸郎は、体の芯が震えるくらいの甘い声で、囁いた。





「唇に、キスして？」


「きっ？？！！」





驚きと羞恥で思わず体を引き離す。


けれど幸郎はニコニコと笑いながら、私の腕を掴んで距離を再び詰めてきた。





「なななななななな、なんで？！」


「だって、俺たちまだ１回しかしてないじゃん。」


「だからってそんな」


「……………いや？」


「…………っ、！！こんの顔面ココア野郎が！！！」


「なんて？？？」





しょんぼりした顔で、それも甘い表情で詰め寄られたら頷きかけるからホントやめて欲しい。





「………それで？お願い、聞いてくれるの？」


「き、急にそんなこと言われたって、心の準備とか」


「恋人のすることに心の準備なんていらないでしょ。」


「私にはいるの！！」


「はいはいわかった。じゃあ、俺からしてもいい？」


「は？！」




もっとハードル高いな。


てか、許可とかなくたって





「………いつでもしたらいいじゃん。ご褒美とかじゃなくてさ。」


「！」





幸郎は、分かりやすく顔を明るくさせた。





「ただし時と場所考えてよ？！公衆の面前とかでやったら許さないからね？！」


「もちろん、わかってるよ。」





嬉しそうな笑顔で、そう言った。

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