カフェオレ男子【昼神幸郎】

９．不動の昼神 ページ9

「おはよ、Aちゃん。」


「((ｸﾞｼｬｱ」


「え、カフェオレ握り潰すほど？」





その翌日、奴は懲りないどころか教室にまで凸して来た


昨日の出来事は私もかなり反省したし、なんなら奴も興醒め所か傷ついて近寄らなくなると思ってたのに



私の昨日の一晩に及ぶ反省と、罪悪感で寝れない夜と、反動で握り潰してしまった朝カフェオレ返せ





「…なんで」


「その前に、溢れてるカフェオレ片付けなよ」





私の右手から滴り落ちるカフェオレは、教室中の空気に浸透していき、クラスメイトの子が慌てて濡れ雑巾やバケツを用意してくれた


持つべきものは優しいクラスメイト

私は礼を言いながら、濡れた床を雑巾で拭いた
バケツの水を捨てようと思ったけど、昼神くんとの会話を優先してと言われ、雑巾はどうせカフェオレ臭さは抜けないとのことで、そのままカラカラに全力で絞られてからゴミ箱に捨てられた


なんていらないお節介


そんな私の表情を、面白そうに廊下側の扉にもたれかかって見ているカフェオレ野郎


再び「嫌」が上塗りされた





「………なんかおかしい？」


「ナイショ。正直に言ったらまた嫌われちゃうから」


「…………」





昨日のアレを根に持ってるような言い方に、私は思わずたじろいでしまう


けれど奴はそんなことなど露ほどにも思ってないようで、その場で佇む私に近寄ってきた


他クラスなんだけど、なんて言える余裕もなく、私は目の前にあの大きな巨体を見据えた


奴は、そんな私の顔を覗き込む





「隈、凄いね。寝れなかったの？」


「…………お陰様で」


「あれ、俺のせい？もしかして、罪悪感で寝れなかったの？」


「………………」





図星だ


私はついにいたたまれなくなって顔を背ける



昨日の時点で一応謝ってはいても、一度吐いた言葉は確かに人を傷つけた


その事実だけで辛いけれど、そんなことを被害者本人の前でなんて言えない



けれど、そんな私の気持ちなんてまたもやお構い無しに、奴は明るく笑って言った





「反省して、後悔して、一晩苦しんでくれただけで、もう充分だよ」





.



..



...





こいつ、やっっっぱり性格悪い！！！




いやいや、確かにそれで良いならいいけどさ、なんかやっぱり根に持ってる！！！！



いいよ別に！！今回は私が全体的に悪いし！！！


でも表情と相まってすっごいやらしい！！！！





「あんなことぐらいで傷ついてたら、俺もっと昔に他のことで折れてるから、気にしなくていいよ〜」





それはそれでもっと腑に落ちない



その日、私はこいつが「不動の昼神」と呼ばれている所以を知った

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