第五十五話 『黒』 ページ8
相手が放った煙幕に巻き込まれ、一瞬その場から動く事ができなかった。
煙から何とか逃れ、相手も他の奴等もいない事を確かめてから、王の所へ向かう。
「王よ…しっかり…!」
慌てて王を抱き起こすが、王に返事をするまでの力は恐らく無いに等しい。
辺りに散らばった血から見ると、相当な出血量だ。今は収まっているとは言え、無理に動くとまた溢れ出る恐れがある。
とりあえず敵もいないし、一旦アジトに戻って千世さんに傷を癒してもらおう…。
「王よ、アジトに戻りましょう。
大丈夫です、貴方を決して死なせは致しません」
____今の俺に言える事は、これしかない。
そうして王を支えようとしていると、向こうから1人の小柄な男が駆け寄ってきた。
あの特徴的な髪型。
王と酷似した服装。
「…千世さん…!」
「郁水さん!兄さんは一体…!?」
「丁度良かった、王の治療を…お願いします」
今は治療の方が先だ。それに、話は治療をしながらでもできる。
千世さんは深く頷き、王の元に駆け寄る。
これで王は死ぬ事は確実にない。
思わずハァ、と大きい息を吐くと、千世さんは少し苛立ったような顔をしてこちらを見た。
「…ごめん、俺も堕落者と殺り合った直後で…疲れてて」
「いいえ、攻めるつもりはありませんよ。何故兄さんがこうなったかを知りたいだけです」
流石兄弟だな…顔も似てるし、何より心配してくれる存在が身近にあるって事が恵まれてると思う。
そう感心しながら先程の出来事を自分が見た所から見た所までを事細やかに話した。
千世さんは何も言わず、ただ俯きながら聞いていた。
____それを聞いた時、どう思ったのか。
それは俺にも分からないし、分かるのは千世さん自身だけだ。
「…じゃあ、王の事、よろしくお願いします…俺はもうちょっとここの様子を見て来る」
「…そうですか。くれぐれも気を付けて」
「あぁ」
____あの時の希汐さんの顔。
今まで見た事があった顔とは程遠かった。
恐ろしかった。
落ち着いてはいたが、目の奥はあまりにも深い『黒』だった。
いつかは、俺も…________
「…ッたく、独りになると余計な事考えるから駄目だよなぁ…」
一瞬脳裏に浮かんだ血まみれの自分を払い除けるように、ぐしゃぐしゃ、と頭を乱暴に掻きながら歩を進める。
しかし。
できれば誰も殺したくはない。
そう思っている奴に限って、敵が襲って来ようとは。
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ねこうさぎ(プロフ) - しのっちさん» しのっちさん!続編できたそうなので更新してください! (2016年9月11日 13時) (レス) id: 721485c99d (このIDを非表示/違反報告)
ねこうさぎ(プロフ) - しのっちさん» しのっちさん!続編できたそうなので更新してください! (2016年9月9日 20時) (レス) id: 721485c99d (このIDを非表示/違反報告)
海月(プロフ) - 大変長くお待たせしました。続編を製作しました。 (2016年9月9日 16時) (レス) id: e483cc4c78 (このIDを非表示/違反報告)
ねこうさぎ(プロフ) - 海月さん» 続編を作成してください。 (2016年9月9日 8時) (レス) id: 721485c99d (このIDを非表示/違反報告)
しのっち(プロフ) - ……お話がいっぱいだったようなので、続編ができるまで待機しておきます…… (2016年9月8日 23時) (レス) id: 3d07d6e42c (このIDを非表示/違反報告)
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