ストーリー ページ5
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卵焼きを作っていた筈なのに、出来上がったのは黒く焦げた塊。
試しに一口食べてみるも、これは食えたものじゃない。
苦い。しかもそれだけではなく、外はパサパサ、中は半生。卵液が固まりきっていない。
何をどうすればここまで酷いものが出来るのだろう。我ながら不思議でしょうがない。
セールで半額だった卵、無駄にしてしまった。
いや、卵だけじゃない。醤油も塩も無駄だ。なんなら油も無駄にした。焦げ付いてしまって、油を塗った意味がない。
「クッソ、流石にここまで失敗することはなかなかねぇぞ……」
卵だってタダじゃねぇのに。
安物のフライパンに乗った黒焦げのそれを見ていると、どうしても捨てる気にはなれない。
「……勿体無いな、食うか。これ。」
仕方なくその卵焼きになる筈だった物体をフライパンからこそいで剥がし、皿にのせる。
焦げ付いたフライパンを少量の洗剤をつけた使い古しのスポンジで擦る。
焦げ付いてこびりついた卵だったもののカスはなかなか取れず、流石に油をケチり過ぎたか、とスポンジを握る手に力を込める。
漸く洗い終える頃には卵焼きだったものはすっかり冷めきり、固さは増していた。本当にここまで災難なこともあるものなんだな。
何気なくスマホを弄っていると、速報の文字が。
何気なく開いた記事には燃え盛るビルの写真と、事件の内容、それからうちの学長の会見の内容が記されていた。
「……まっさか、嘘だろ?」
記事によれば、ビルの爆発はテロ組織によるもの。
そしてその対処のために、御神ヶ崎の生徒が駆り出されるとのこと。
勿論Sクラスの俺は前線に駆り出されることだろう。
「マジか……んなこともあるのかよ……。」
口をついて出た言葉は小さく掠れていた。
何とも言い難い感情が巡り、気を紛らわせようと、口に入れた卵は、固くて苦かった筈だが、味がよくわからなかった。
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