困り事56つ目 ページ9
呆然とした表情でぼろぼろと涙を流しながら「ちがう」と呟き続ける津守。いっそ哀れにも見えるその姿にぞっとした。生まれた時からの教育がこれほどまで洗脳的だなんて思っていなかった。
ふと、昔アメリカの高校で行われたサードウェイブ実験の話を思い出した。
第二次世界大戦中にドイツ人がナチス政権の政策をどのように受け入れることができたのか説明するために高校教師により実施された実験。「サードウェイブ」の権威の象徴を作り、その象徴が作ったルールや規律を守るように告げた。翌日には生徒たちは何も言わずにそれを守り、わずか3、4日で当初30人だった参加者が200人に上り、更なる規律を望む声や、規律を守らない者への内部告発も発生し、「サードウェイブ」の規律と忠誠心は膨れ上がっていったという。
脳が警鐘を鳴らす。早く津守に真実を見せるべきだと。そうでないと本当にこの男は両親という「神」のために自ら増やした規律のために死んでしまうと。
こちらの心が痛むほどの悲痛な泣き方に、泣き出したくなった。プライドが許さなかったけれど。
「落ち着け津守。悪かった、俺たちはお前のことが知りたかっただけだ。泣かせるつもりはなかった。俺らはお前の卒アルだって見たことねぇんだ。だからちっとムキになって変な聞き方した。お前は親御さんのこと好きだもんな？あれは最初班長の顔が怖かっただけだよな？」
「おい松田…」
「父さんと母さん、すきです。班長は、さいしょ、ちょっとこわかったです」
「え」
「結、俺は、俺のことは？！」
「…ふへ、だぁいすき」
「おにいちゃんも結がだぁいすき…」
ぐしゃぐしゃになった顔でそう言う津守はいつもより何倍も幼くて、自慢の面をブッサイクに歪めて泣き出した幼馴染兼親友に抱きつかれながら嬉しそうに笑っている。時折感じるこういう幼さは、一部の情緒が成長しきれなかったところにあるのだろうと思う。
「…俺も萩のこと言えねぇな」
「ありゃ仕方ねぇよ。…悪かったな」
「オウ」
津守のくっつき虫となった親友を引き剥がし、今日の所は退散する(この音声をどこかで聞いているであろう諸伏の相手は恐らく一緒に居るであろう降谷に任せる)。
ただ、先に2人を病室から出し、涙でぐしゃぐしゃになりながらも不思議そうな顔をする津守に告げた。
「お前の口から言わねぇとどんだけのモン抱えてんのか分かんねぇ。もうちょい自分の心に鋭くなってやっても良いんじゃねぇの。…また来るな」
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きゃすみ(プロフ) - めちゃくちゃ泣きました！！素敵な作品を作ってくださりありがとうございます！！ (2023年3月10日 14時) (
レス) id: e6f2b24efc (このIDを非表示/違反報告)
セイカ - 更新したんですね！相変わらずめっちゃ良かったです！ (2022年12月23日 12時) (レス) @page15 id: bb7bb5003e (このIDを非表示/違反報告)
mikitty(プロフ) - 更新お疲れ様です！ (2022年12月22日 21時) (レス) @page15 id: 75972ecbb8 (このIDを非表示/違反報告)
ライキ - うわぁぁぁぁぁぁん！！！結くんーー！！！！！仲間たちを頼ってくれてありがどうぅぅぅ！！！！ (2022年12月7日 18時) (レス) id: c3cdfe919e (このIDを非表示/違反報告)
早桃 - めっちゃ好きな作品、、、！最高、、、！これからも無理せずに更新頑張って下さい！応援してます！ (2022年11月24日 19時) (レス) @page12 id: f9af42ef58 (このIDを非表示/違反報告)
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