・Hear of her side_Natori. ページ5
癪だ。
本当に、そう思う。
それでもさっきの横顔が頭から離れなくて、
──足が勝手に、整形外科に向かっていた。
「おー、さっきの。どーも」
能天気かよ。
早速見つけてしまったそいつ。…なんだっけ、…三嶋？
ため息は心の中だけに留めて、作り笑いを顔に貼り付けた。
「お疲れ様です」
「誰かに用ですか？」
「いえ、三嶋先生にちょっと聞きたいことがあって、」
「もしかして倉橋？」
「……まぁ、そうです」
目の前の三嶋を見つめると、ふと考えるような顔になった。
お前と話すことなんてねぇよ。
倉橋が気になるから来てんだよ。
無言の時間が長すぎて、心の中の苛立ちが顔に出そうになる。
「じゃあ、今日の勤務終わりに、とかどうですか？
……あ、もしかして、当直？」
「いや、違いますけど」
「おー、良かった。…じゃあ今日の勤務終わりにどっかで待ち合わせましょうか」
それが嫌でこの時間にわざわざ来てんのにな。
でも、聞きに来てる手前今話せよとは言えなかった。
───スタッフステーション。
「おつかれ」
横峯に声をかけられて、おう、とだけ返した。
視界の先には白石先生と橘先生。
その2人から“倉橋”の言葉が聞こえた気がして、
パソコンを開いて、作業してるフリをしながら2人の会話に耳を傾けた。
「───確かに。その方がいいかもしれんな」
「藍沢先生には私から話しておきます」
「あぁ。頼む」
しばらくの沈黙の後、白石先生の声が再び聞こえた。
「……本人には、伝えますか？」
「いや、それは俺から伝えておくよ」
「…すみません」
「いやいや、いいっていいって。元は三井の仕事だったんだ。…お前に押し付けて悪かったな」
「いえ。……じゃあお願いします」
「おう」
何も分からないまま会話が終わって、2人の先生がそれぞれバラバラな方へ歩いて行く。
何の話だったんだよ……、
「名取先生、今の聞いてた？」
「何が？」
「白石先生と橘先生の話だよ」
ちょうどタイミングよく、横峯が話しかけてくる。
気になるは気になるけど、気になってないフリをしながら横峯をちらっと見た。
「聞いてないけど、…何？」
「倉橋先生の指導のこと」
「……へぇ」
「倉橋先生って、これまでは白石先生に指導してもらってたけど、これからは藍沢先生になるって」
嬉しそうに話す横峯。
…そっか、仲間が増えて良かったな。
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作者名：シェリー | 作成日時：2022年3月2日 0時
