09.失恋と、死と ページ9
〆.
「A!!!!」
大きな声と、足音と。
その頼もしい男性の声は、パレード中の拡声器や、国営放送で聞き慣れた愛しいあなたのもの。
「………大毅くん」
誰にも届かないような声で呟いたのと同時に、あなたは目の前に現れた。
「A………!?」
ここまで命懸けで助けに来て、しかも呼び捨てで呼ぶ。
…………大毅くんは、Aを好きになったんだね。
「お願いです、大毅様!A、煙を吸い込んで苦しんでるの!はやく連れ出してください!私の力じゃ抱えられなくて、」
「わ、わかった、」
正直…………羨ましくなかったわけじゃない。
あなたに「A」と呼ばれ、
こんな危ない場所まで助けに来てもらえて、
お姫様抱っこまでしてもらえるAが。
「でも、あなたは?」
「私もすぐ追いつきます、この火の中をくぐるんだから、水でハンカチでもぬらしておかなくちゃ」
「そうか……すぐ来るんやで!?」
そう言い、大毅くんは駆け出した。
二人の姿が見えなくなった後、私は力なく倒れ込んだ。
もう立ち上がるのも無理だ。
火に包まれた部屋。
遅くとも数分後の死を悟るのは容易だった。
〆.
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作者名:はゆな | 作成日時:2019年8月24日 19時