【inzm】雷門の天使様２ (ページ9)

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　あっという間に時は過ぎ、尾刈斗中との試合当日。
　割と寝坊助な豪炎寺を起こすため、Aは勢いよく彼の部屋の扉を開け放った。

｢修也おはよ！｣
｢おはよう、A｣
｢あれ、今日は割と寝起きがいいね。試合だから気合い入ってる？｣
｢そんなところだ｣

　表情は分かりにくいが、生き生きとしている。やはりサッカーは彼のすべてだと言っても過言ではないだろう。こんなにも楽しげな幼なじみの姿を見られるならば、Aとしても万々歳だ。
ジャージに着替えた豪炎寺と二人で食卓を囲みながら雑談をする(囲むといっても隣同士でくっついて座っているだけだが)。

｢結局、尾刈斗中の呪いについては分からず仕舞いだったな｣
｢そうだね〜……まあ、試合中に分かることもあるんじゃない？｣
｢能天気なお前らしい｣
｢能天気は余計｣

　喉の奥だけで笑いを零す豪炎寺の、自分より遥かにシャープな頬を恨めしげにつんつん突くと、仕返しのように頬をみょーんと伸ばされた。

｢もち｣
｢餅じゃないー｣

　思わず口では否定したが、豪炎寺が戯れのような触れ合いをしてくるのは心に余裕がある証なので、ほんの少し安堵する。これからの彼が心に暗雲を落とすことなく、平和に過ごせたらいいのに。人に与えられる幸福の度合いはそう変わらないものだ。もう彼は十分傷ついたし頑張っているのだから、これからは幸せだけを享受して生きていけなければおかしい。だって、自分が神様ならそう采配する。
　幼なじみ馬鹿全開の思考をだだ漏れにしながら、Aは卵焼きを頬張った。

｢びみ｣
｢良かったな｣
｢あ、そういえば｣
｢ん？｣
｢染岡とは上手くやれそう？｣
｢……あいつ次第だ｣
｢あー……プライド高いからねあのこ｣

　だが、染岡はプライドの高さに見合う努力も重ねてきた男だ。むしろ、数日で必殺技を完成してしまえる程の弛まぬ努力の結果、少々排他的なところが出てきてしまっているというか。

｢ま、何とかなるよ｣
｢のう……｣
｢能天気じゃない｣
｢まだ何も言ってないぞ｣
｢修也が言いそうなことくらいわかりますー｣

　染岡も豪炎寺も、一度やると決めたことは何としてでもやり遂げる、信念と意志の強さを持っている。だから、良き仲間でありライバルのような関係にだってなれるはずなのだ。

｢今日の試合がんばってね｣
｢ああ、お前が病院に行きたくなるくらいには｣
｢それは無理かなぁ｣

　血液検査はもう二度と受けたくない。

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