【inzm】雷門の天使様２ (ページ41)

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　今日の練習も、豪炎寺と壁山は"イナズマ落とし"を完成させる特訓に注力していた。壁山が毎度着地に失敗するという問題点はあるものの、豪炎寺のオーバーヘッドキックも、壁山のジャンプも、高さは十分である。後は二人が息を合わせて完成させるだけ……のはずだった。

｢たたた高いところ、だめなんっス……こわいっス……｣

　そう、今になって壁山が高所恐怖症であることが判明したのだ。

｢着地ができなかったのも、それが原因か……｣
｢下を見ちゃうから怖くなるんじゃない？ずっと豪炎寺くんを見てたらどう？｣
｢はい、やってみるっス｣

　秋のアドバイスに壁山は頷くが、そう上手くは行かないだろうとAは見当づけた。そもそも、高所恐怖症というのは漢字からわかる通り、れっきとした精神疾患である。それに加えて壁山の性格を考えたとき、豪炎寺の方だけを見ろと言われても、恐らくは下を気にしてしまうはずだ。
　しかし、円堂が今更壁山ではない他のメンバーに"イナズマ落とし"の土台役をさせるとは思えない。彼はどこまでも仲間を信じ抜く人間だから。それならば、根本の恐怖を別の何かで塗り替えるしかない。

　思考を巡らすAの予想通り、壁山はまた空中で体勢を崩した。このままでは、彼を土台にする豪炎寺も怪我をしかねない。野生中との試合が間近だというのに、とんだ壁にぶつかったものである。

｢あらあら。こんな状態で次の試合、大丈夫なのかしら？｣

　皆が振り向くと、雷門中の権威たる夏未お嬢様が木に寄りかかって立っていた。

｢せっかく秘伝書を見つけてあげたのに、この様子では無駄になりそうね｣
｢なに……！？｣

　嫌味ったらしい物言いに染岡が突っかかるが、円堂が手で抑える。

｢誰に何を言われたって、豪炎寺と壁山は"イナズマ落とし"を完成させるって俺は信じてる！そして、絶対試合に勝つ！｣
｢そう、試合が楽しみね｣

　夏未が去って行くと、壁山が不安げな顔で円堂を呼んだ。

｢キャプテン、信じてくれるのは嬉しいっスけど……｣
｢大丈夫だ！高さを克服できるように、特訓してやるから！｣
｢はい……｣

　これだ、とAは思う。高さを克服する物理的な特訓……ではなく、自分のために力を尽くしてくれる仲間たちの信頼に応える心。壁山は気が小さい分心は優しく、人情に厚い。彼が周囲の献身に気づけば、それが彼らしい強さに繋がるはずだ。

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