【inzm】雷門の天使様２ (ページ40)

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　翌朝。妙な息苦しさで目が覚めた。目が覚めたはずなのに前が見えない。嗅ぎ慣れた香だけが心地好い謎の状況に、もぞもぞと身動きを取る。
　やがて小さく開けた視界に、今の状態を察した。

｢窒息死するかと思った｣

　完全に抱き枕にされている。まあ、Aも豪炎寺を抱き枕にしたことはあるのだが。彼のハグは良いものだ。体温が高いから、体温の低い自分にしっかり温もりを分けてくれるし、何だか落ち着くから。
　それにしても、これでは彼の顔が見えない。ゆっくりとした穏やかな鼓動から、まだ寝ていることだけがわかった。

｢今何時だろ？｣

　昨夜のように手を握られたくらいなら抜け出すことも出来たが、さすがに身体全体を拘束されてはそれも不可能である。
　何だか、投げやりな気持ちになってきた。やることが無いので豪炎寺の首筋に顔を寄せ、すんすんと彼の香を吸い込む。変わらず睡眠欲を刺激してくるにおいだ。

｢……さすがに、二度寝したら、遅刻しちゃう｣

　眠気を耐えていると、もぞりとAよりも大きな身体が動く。

｢ん……？｣
｢修也、おはよ｣
｢……｣
｢修也？｣

　とろんとした眸で今にも瞼がくっつきそうなAを視界に入れた豪炎寺が固まった。最早恒例の石像化現象である。しかし、今回ばかりはすぐ我に返った。というのも、Aをしっかり抱き込んだ自分の腕にパニックを起こしている。
　朝っぱらから随分と忙しい情緒だ、と他人事のように考えた。

｢……？ ……！？｣
｢大丈夫？｣
｢A｣
｢はーい｣
｢本物か……？｣
｢当たり前でしょ〜｣
｢……悪いな、取り乱した｣

　眠そうではあるが概ね普段通りのAの様子を見て、ようやく正気を取り戻したらしい。

｢修也からハグするなんて珍しいこともあるね｣
｢お前もしてるんだからいいだろ｣
｢いいよーどんとこい｣

　異性の幼なじみの距離感として良くはない。その他の人間に対しての距離感は一般的だというのに、何故二人の間でだけパーソナルスペースが破綻しているのかは永遠の謎だ。
　眠気を抑えられないAが二度寝に入るのを阻止しつつ、豪炎寺はハグの許可を得た小さな身体を今一度強く抱きしめた。

　寝るなと言いながら眠気を促進するにおいで包んでくるのは矛盾だ、とはAの談である。

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